第43話 練習期間
食後、私は佳奈に話があるからと部屋に呼ばれた。
「話って何?」
「ペイベックス上半期イベントは知ってるよね?」
「もちろん知ってるよ」
「ええとね。ハリカー大会予選1回戦は私は出られないから代わりにお姉ちゃんに出て欲しいの」
「なんで……ああ! 期末テストか」
部屋のカレンダーを見ると期末テストとハリカー大会の日が少し被っている。
佳奈の期末テストは7月4日(火)から土日の休日を挟んで10日(月)まで行われる。
そしてペイベックス上半期イベントのハリカー大会予選1回戦が7月7日(金)に始まり、期末テストと重なっている。つまり佳奈は1回戦は私に代わりとして出てくれということだ。
「でも夜でしょ? それに土日は休みだからいいんじゃないの?」
「駄目! テスト期間中はゲームはしないという約束だから」
「でもそれを言ったら私だってテストはあるし」
そう。大学にもテストというものは存在する。
期間は高校とは違い、半期授業最終日に行われる。前期の場合は15回目の授業日である7月の中旬と下旬あたり。
「だから予選1回戦だけだから。次の予選2回戦以降からは私が出るから。お願い」
佳奈が両手を合わせて私に請う。
「……まあ、少しくらいならいいけど。でも、ブランクあるよ」
この前に瀬戸さんと久々にハリカー対戦をしたが、やはり10年のブランクはひどかった。何回か慣れてきて、なんとか100ccで1位を獲れたほど。150ccだと下位だ。
「じゃあ練習して」
「人使いが荒い」
「お願い!」
佳奈はもう一度両手を合わす。
「仕方ないな」
「ありがとう。助かるよ。お姉ちゃん」
話は以上のようなので私は立ちあがろうとした。その時だ。
「それともう一つ話すことがあるの」
浮かしていた尻をもう一度床に着ける。
「もう一つ?」
「私、このハリカー大会を機にVtuberを辞める……かもしれない」
佳奈は私と目を合わさずに言う。
「辞めるの? もしかして、この前の……」
「待って! あくまで……辞めるかもって話。まだ自分でも上手く分からないの」
「どういうこと?」
「ハリカー大会で優勝すれば多少は人気が上がるかもしれないし、副賞として企画を立ち上げてくれるらしいの」
「企画?」
「ラジオとか他社との商品コラボとかカフェとか色々あるんだけどね。そのどれかの企画が出来たら人気も出ると思うんだけど」
「なるほどね。それでもし負けたら辞めるってことだよね」
「うん」
佳奈は小さく頷いた。
「それでいいんだね」
「もうこれしかないの」
そんな弱々しく言われると聞いているこっちも辛い。
「分かった。なら、勝たなきゃあ! 練習するよ」
「ありがと、お姉ちゃん」
「いいってことよ。ここはお姉ちゃんに任せなさい」
「うん。私はテスト勉強するから、お姉ちゃんは自分の部屋で練習してね」
なーんか私への扱いが雑な気がする。
◯
「……うぷっ。気分悪い」
ハリカー云々ではなく、ゲーム酔いに慣れないといけないのかも。
Wee時代と違い、スロッチのハリカーはコースがぐるぐると
「駄目。休憩」
私はレースを中断して、ベッドに移動して横たわる。
「きつい」
目を閉じてお腹に手を当て深呼吸する。
ハリカー大会では、どのコースが選ばれるかは分からないらしい。
だから私は知らないコースは覚えておかないといけない。
でも知っているコースでも少し変更点がなされていて、ショートカットやバグが消されていた。
「そういえばスロッチの新コースにはショートカットってあるのかな?」
もしあるなら覚えておいて損はないはず。
私は仰向けからうつ伏せになって、スマホでショートカットを検索する。
「あ、あるんだ」
まずは動画でどんなショートカットをしているのかを見てみる。
と、そこでVtuber達によるハリカーの動画配信を見つけた。
「へえ、上手い……駄目だ。見てるだけで気分が……」
私は動画を急いで消した。
「まずは酔いを治す方法でも探そうとかな」
【車酔い 治す】で検索すると酔い止めの薬がヒットした。
見たいのは通販サイトではなく、おばあちゃんの知恵袋的な、こうすれば酔いが良くなる的なものを求めているんだけど見つからない。
でも最悪気分が悪くなったら飲むべきかな?
とりあへず買っておこうかな。あって損はしないだろう。
次に私は【車酔い 治す方法】で検索すると求めているような答えがヒットした。
『サムズアップして親指の爪をじっと見る』
『両耳の耳たぶを下に引っ張る』
『ベルトを緩めて立ち上がる。そして遠くのものをじっと見る』
『内関というツボを押して、ガムを噛む』
「…………これは本当なのかな?」
いくつか聞いたことのあるものがあったが、しかもそれはぐるぐるバットでの必勝法だったはずで、車酔いというか目が回った時の対処法。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます