第37話 人狼ゲーム①【宮下佳奈】

「お母さんは問題ないって言ってたけど、実際どうなの?」


 私は姉を部屋に呼んで、瀬戸さんのことを聞く。


「だから普通の人だって」

「ふうん」


 私はその瀬戸さんが持ってきたお菓子を食べる。


「これデパ地下のフィナンシェね」

「フィ……何?」

「フィナンシェよ。もう!」


 きっと姉は小さいパウンドケーキか何かと思ってたんでしょうね。


「で、話ってそれだけ?」

「違うよ。今日は人狼ゲーム『封鎖海中パーク・カルペ』の配信があるの。大規模なコラボだから多数のVtuberも参加するの。他のVtuberの名前とキャラを覚えるのにもってこいでしょ?」

「私は見てるだけ?」

「ゲームのルール知らないでしょ。見てるだけでいいよ。参加者はホストのサラサ、同期のマイ、この前にコラボしたトビ、そして卍、ユーリ、パコ……」

「ストップ、ストップ! 何人いるのよ」

「私を入れて10人」

「多すぎ。ちょっと待って。メモとるから」


 姉はスマホを出してメモアプリを起動させる。


「どうぞ」

「ホストのサラサ、同期のマイ……」


  ◯


「どうもー。完熟サラサでーす。今日はペーメン10人で人狼ゲーム『封鎖海中パーク・カルペ』をやろうとおもいまーす」


 画面内で中央にあるキャラクターの上に文字のない吹き出しが現れる。


 これは今、喋っていることを示すアイコン。

 そして画面内のキャラクターの頭上に名前が載っている。


 Vtuberのアバターではなく、ゲーム用のキャラのため誰が誰か分かるための措置。


「初めてのリスナーの方のために、人狼ゲーム『封鎖海中パーク・カルペ』のルール説明を致しまーす」

「よ、大統領!」


 みぃこが囃し立てる。


「誰が大統領だ!?」

「めんご、めんご」

「ストーリーはテロリストにより、海中パーク・カルペに閉じ込められた人が期限内に脱出艇に乗って外に出るというもの。ただし、中にテロリストがいるため一緒に乗ると脱出艇が自爆してしまうので皆さんは見事テロリストを見つけなくてはいけないというストーリーです。

 配役は客、スタッフ、公安、警備員、テロリストとなっております。

 客は5人で何も力がありません。

 スタッフは2人です。1人でも残っているとパークの崩壊期限を止めることが出来ます」

「何で止まるの?」


 と2期生のユーリが聞く。


「スタッフはパークを修理出来るってこと。ただし、完全に直すことは出来ないの。オッケー?」

「オッケー。理解した」

「続いて、公安は1人。就寝時に他の部屋に向かうことができ、テロリストだった場合は捕まえることが出来ます。

 警備員も1人です。就寝時に仲間1人を守ることが出来ます。

 そしてテロリストは1人で、就寝時に自分以外を殺すことが可能です。

 進行は会話、ミニゲーム、ディスカッション、処刑、就寝、結果の順になっております。

 リスナーさん、ご理解できましたかな? 勿論、ペーメンの皆は理解しているよね?」

「理解してないと言ったら?」


 マイが聞く。


「このゲームから降ろします」

「理解してます」

「よろしい。では皆さん、自身の配役カードを捲って下さい」


 画面に配役カードを渡され、それを裏返す。【客】が私の配役らしい。


「見ましたね? では人狼ゲームスタート!」


  ◯


【サラサ】:「それではまず私から……客です」

【トビ】:「私も客」

【パコ】:「客にゃん」

【ゆるる】:「客……てか、ここは全員客って言うんでしょ?」

『アハハハハ』

【サラサ】:「そうだよね。ここで客以外のスタッフとか公安とか言うとテロリストに狙われるもんね」

【トビ】:「テロリストは名乗ってもいいよ」

【ゆるる】:「トビはテロリストじゃないの〜?」

【トビ】:「こんな可愛い私がテロリストなわけないじゃないの」

【ゆるる】:「……」

【トビ】:「何で黙るのー!」


 そりゃあ台パンの女王だもんね。可愛いけど本性は怖い。姉も隣で「怖いもんねー」と呟いている。


【トビ】:「ん? 今の声は?」

【ユーリ】:「誰?」

【詩子】:「メメの発言らしいですけど。お声が……」


 あ、やべ。

 姉もしまったなと口を手で押さえている。


【メメ】:「あ、すみません。今のはオルタです」

『オルタ!』


 皆が驚いて、オルタの名を発する。


【マイ】:「え? オルタ、そこにいるの?」

【ゆるる】:「こんにちはですぅ〜」

【パコ】:「どうして参加してるにゃ?」

【ユーリ】:「本物かよ?」

【卍】:「参戦でござるか?」


 次々と質問が飛び交う。


【メメ】:「落ち着いてください。オルタは隣で見ているだけで、参加しているわけではありません」

【マイ】:「えー! 一緒にやろうよー」

【サラサ】:「はいはーい、皆さーん、落ち着いてー。えーと、オルタは見てるだけってことでいいのかな?」

【メメ】:「はい。すみません、お騒がせして」

【マイ】:「えー!?」

【サラサ】:「ではミニゲームに移りましょう。ミニゲームは成功すると全員に1人だけ配役がバレます。そして失敗するとテロリストに1人の配役がバレます」

【トビ】:「ミニゲーム、どれにする?」

【みぃこ】:「多数参加の方が良いんじゃない? 誰が足を引っ張ったか分かるし」

【メメ】:「ですね」

【マイ】:「なら、この大縄跳びかな?」

【卍】:「いやいや、ここはコップタワーでござるよ。大縄跳びは簡単でござる」

【マイ】:「簡単だからいいんじゃない?」

【卍】:「確かに成功し易いでござるが、ここは誰が足を引っ張るか確かめ易い方を選ぶでござる」

【サラサ】:「なるほどね。どう失敗するかってことね」

【ゆるる】:「でもそれって失敗し易いってことだから足を引っ張り易いってことじゃない〜」

【みぃこ】:「……分かったわ」

【卍】:「違うでござるよ」

【パコ】:「何が分かったにゃん?」

【みぃこ】:「テロリストよ」

【パコ】:「まじにゃん?」

【みぃこ】:「テロリストは卍よ!」

【パコ】:「そうなのにゃん!?」

【卍】:「違うでごさるよ。信じてくだされー」

【サラサ】:「はーい、落ち着いてー。とりあへずミニゲームをしましょう」

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