第34話 過去

「実は大学の子に身バレされた」


 夜、リビングにて私は妹に身バレのことを告げた。


「え!? 誰に!? 豆田さん!?」

「違う。瀬戸さんって人」

「なんで!?」

「えっと……声とかレポートとか、あとは青いハーブティーで」

「ちゃんとしっかりしなさいよ」


 話を聞いていた母がちょっと怒っている。


「で、でも青いハーブティーの件は佳奈が原因だよ」


 私は佳奈を指差す。


「私?」

「配信で言ったことと、ネットで上げた写真が原因」

「それで?」

「うん」

「それでその人は大丈夫なの?」


 母が私に聞く。


「元々メメのファンだから口外はしないって」

「いや、それはやばくない? ファンなんでしょ?」

「お母さん、やばい人じゃないよ。優しい人だよ。Vtuberについても色々と教えてくれたし」

「でも……ねえ?」


 と母は父に顔を向ける。


「そうだな。ファンてのはストーカー気質があるからな」

「待って、待って。そんな大袈裟な。瀬戸さんは普通の人だよ」

「その瀬戸さんという人はいつからの知り合いなんだ?」

「え? ……ついこの間、知り合った仲」

「ほらー」


 母がものすごく沈痛な顔をする。


「大丈夫だってばー」

「前にそう言ってどんなことになったか……」

「前?」

「え? あっ、いや」


 母は急に目を逸らす。


「なんかあった?」


 しかし、皆は母と同じく目を逸らすのみで答えてくれない。


「どうしたのさ? 佳奈の件のこと? あの剣なんとかって人の?」

「それじゃなくて……」

「じゃなくて?」

「……」


 どうして皆は黙るのか?


「もう千鶴も大人だ。話そう」


 と父が意を決めたように口を開く。


「……あなた」


 どこか不安そうな顔をする母。

 一体なんなのだろうか?


「昔のWeeのハリカー全国大会を覚えているか?」

「ハリカー全国大会? 中止になったやつ?」

「ああ。なんで中止になったのか覚えているか?」

「なんだっけ? 佳奈、覚えてる?」


 聞いておいてすぐに佳奈は当時、園児だったから覚えてないかと考えた。


 しかし──。


「うん。覚えてる。当時はどういう意味かは分からなかったけどね」

「え?」

「ストーカーだよ」

「嫌がらせよ。嫌がらせ」


 父のストーカーという言葉に母は覆いかぶすように言葉を重ねる。


「……まあ、そういうことだ」

「え? それって私がストーカーされたってこと?」

「嫌がらせよ。ほら、悪戯いたずらとか多かったでしょ?」


 そう言われるとあの頃、悪戯被害が多かったような。


「警察も来てたの覚えてない?」


 と佳奈が告げる。


「ああ! そういえば会った。で、警察に話をした」

「でも、あれって周辺のじゃなかったの?」

「あれはあんたへの嫌がらせの件で警察が話を聞きに来てたのよ」

「はー。そうだったんだ」

「じゃあ、ハリカー全国大会が無くなったのって私が原因」

「いいえ。他にも出場選手に嫌がらせが多くて、運営が中止にしたのよ」

「そんなことがあったのか」


 まさか子供の時にそんな被害に遭っていたとは驚きだ。


「あの後、お姉ちゃんは理解してなかったから皆で隠すことにしたのよ」


 と佳奈は言う。


「逆になんで佳奈は知ってるの?」

「知ってるというか覚えていた。で、前にお母さんから教えてもらった」

「で、瀬戸さんって人は本当に大丈夫なの? 変なオタクではないでしょうね」

「大丈夫だって。普通の人。オタクでもないし。陽キャの人。カースト上位」

「でもVtuberのファンでしょ?」

「Vtuberのファン=オタクってわけではないよ。ね?」


 私は佳奈に振る。


「……割合で言ったらオタクが多いけど」

「ほら!」


 佳奈の言葉で母が強気に出る。


「普通の人だって。今度呼ぶから。紹介するから」

「ストーカーを?」

「ストーカーじゃない!」


もう! どうしてそんなにストーカーにしたいのよ!


  ◯


「ということで今度、家に来てくれないかな?」


 緊急家族会議の後、私は瀬戸さんに連絡して、ことの次第を説明した。


『そういうことなら分かったわ。でも、メメちゃんには会わせないでね』

「なんで?」

『キモくなるから』

「え? 瀬戸さんってキモい人なの?」

あやよ。言葉の綾。ちょっと興奮するくらいよ』

「あー。でも、メメの動画の時、ハイテンションだったよね」


 あれは引いたわー。


『忘れてアレは。私も自重します。ただメメちゃんには会わせないで。心の準備もまだだから』

「分かった。それじゃあ、今度の土曜日はどうかな?」

『いいよ』

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