第32話 大学【瀬戸真里亞】

 大学の昼食後、


「これ宮下さんから」


 私はコードの書かれた紙片を天野に向ける。


「え? 何?」

「ハリカーのコードよ。あんたが頼んだんでしょ」

「ああ。そうだった」


 特にどうでもよさそげに天野はコードが書かれた紙片を受け取る。


「私、写真撮るから待って」


 あらたがスマホを取り出し、写真を撮る。


「新もハリカー持ってるの?」

「持ってるよ。弟が買った」

「天野はハリカー経験あるの?」


 と私は天野に聞いたが、答えたのは新だった。


「めっちゃ強いよ。確か小学生の頃にハリカー全国大会で東京の次席代表だったんだよ。ね?」

「次席代表?」

「都内2位ってことよ。昔よ、昔」


 天野は話を切り上げようとしているのかバッグを持ち、席を立つ。


「えー。聞いてなーい」

「自慢することでもないでしょ」

「でも2位って、すごいじゃん。それって、いつの頃?」


 私も席を立ち、話を続けさせるため質問をする。


「小3の頃」


 天野は歩きつつ答える。


「へー。新はなんで知ってたの?」

「小中一緒だったし」

「そうだったの?」

「言ってなかった?」


 あれれ? と、新は小首を傾げる。


「聞いてない、聞いてない」


 つまり天野は小中は新と。高校は宮下さんと同じだったということか。


「で、全国大会はどうだったの?」


 私は天野に聞く。


「中止よ」

「中止?」

「前に話したでしょ? 色々とトラブルがあったって。それで全国大会は中止」


 確か負けた子が勝った相手に嫌がせとかをしていたという。


「へえ。それって……もしかして天野が……」

「違う!」


 天野が私に振り向き、語気を強めて否定する。


「そ、そうなんだ」

「そうよ」


 と言って天野はずかずかと前を歩く。


「確か、1位の子だよね」


 新が答える。


「その子に嫌がせが?」

「らしいよ。詳しくは知らないけどね」


 そこで私のスマホが鳴った。


 誰だろうと伺うと宮下さんかのメールだった。

 私はちょっと立ち止まり、メールを開いてみた。


『見つけた。天野さん、英数科にいたよ』


 そして卒アルから撮ったであろう画像も添付されていた。


「うわっ、全然違う」


 高校時代の天野は化粧気のない黒髪ストレートの少女。今のステレオタイプの遊んでる系女子大生とは全然違う。


「ん? どうしたのよ?」


 天野達も立ち止まり、私に振り向く。


「宮下さんからメールが来てたの」

「へえ」

「前にあんたが同じ高校だって話になってね。向こうは知らないって言うから、卒アルで……」

「え!? ちょっ、待ちなさい!」

「写真が送られてきたわ」


 私はスマホの画面を天野に見せる。画面には高校時代の天野の写真が載っている。


「やめて! バカ!」


 天野は私の手を叩き、スマホ画面を下に向けさせる。


「清楚系でもイケたんじゃない?」

「うっさい」

「てか英数科だったんだ。国公立進学派だったんだね」

「そうよ! もう黒歴史なんだか!」


 なぜ黒歴史なんだろうか? 英数科は頭の良いクラスらしい。むしろ誇れるべきでは?


 天野は私の疑問に勘付いたのか、


「国公立なんて難しいのよ。私の学校、そんなに偏差値よくないのよ。それなのに勉強、勉強ってさ、ほんとにやんなっちゃうわ」

「なるほどねー。それで勉強から解放されたあんたは大学デビューを」


 私は深く理解したようにうんうんと頷く。内心は笑ってるけどね。


「だーまーれー」


 天野は両耳を塞ぎ、いやいやする。

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