第29話 迷推理【瀬戸真里亞】
大学から少し離れた喫茶店の窓際の席から暖かな日差しが差し込んでくる。それを肌で受けると「ああ、もう夏だな」と感じる。
夏は何をしようかなと思い馳せると、天野に付き合わされてビーチでナンパされるという
ダメダメと私は首を横に振る。するとテーブルを挟んで私に対面で座る宮下さんはびくついた。
「ごめん。なんでもない」
私は微笑んで目の前のパフェをスプーンで掬う。
「……はあ」
宮下さんは、どうしてこうなったと言う顔でアイスコーヒーをちびちびと飲む。
私も天野達と喫茶店に入るとアイスコーヒーを飲むが、本当はコーヒーは苦手でジュースが飲みたいのだ。しかし、ジュースなんて飲むと馬鹿にされる。ましてやパフェなんて頼むと子供かよと言われるのは目に見えている。
でも、今日は天野達はいない。それに宮下さんはたぶん言いふらさないだろう。
なぜなら、今から私はある話をするのだ。
「あの、話って何?」
そろそろいいかな。
「ええとね。宮下さんって、赤羽メメ・オルタだよね」
「!? えっ!?」
「そうよね?」
「なっ、何言ってるの。そんなわけないじゃん」
宮下さんは明らかに動揺する。
「それじゃあ、いくつか私がそうだと考えることを述べるね。ええと、まずは声が同じなのよ」
「!?」
「そして最初の……というか事故の時だけど」
探偵というものはよく
私は一口パフェを頬張ってから、
「レポートって言ってたよね。あの頃にレポートがあったのは文芸論Bだけなの。私、総会に顔が効くから、調べて分かっているの」
まるっきりの嘘である。
「いや、大学って他にもあるし……」
そりゃあそうだろう。
「次に配信でオルタは豆田って言ってたの。あれって、お友達の豆田さんよね? これも裏は取れてるから」
これも嘘です。
「えっ、いや、あの」
あわあわと宮下さんは違うよと手を振る。
「この切り抜き動画を見て」
私はコードレスイヤホンを宮下さんに渡し、装着を促す。
そして問題の箇所を流す。
「どう? 言っているでしょ?」
「あ、う、うん。そうなのかな? わ、分かんないや」
「次に宮下さん、あなたはこの前、生協でハーブティーを買ったよね」
「うん。買ったけど」
それが何という顔をしている。
「赤羽メメがこの前の配信で姉が青いハーブティーを買ったと言っているのよ」
「青いハーブティーなんて、そんなに珍しいかな?」
「まだシラを切ると? いいわ。なら、これを見ても知らないと言えるかしら?」
私はSNSのとある画像を見せる。
それは赤羽メメが青いハーブティーの包装を写したカメラ画像。
「このハーブティーに貼られているシールを見て」
「それが何?」
「このご時世、ビニール袋は有料よね。でも、買った物が少ないなら必要ないよね。そしてその時にシール貼られたんでしょうね」
「そう……なんじゃない?」
「このシール。アップするとね」
私はスマホを操作して画像を拡大する。
「!?」
「分かる? ここにうっすらとだけど、マークが記載されているのよ」
「これは……」
「うちの大学の校章だよね?」
そう。そのマークは我が大学の校章。
ただ、うちの校章は他の大学の校章にも似ていて、さらにうっすらとしている。
宮下さんが「そうかな?」とシラを切られるとどうしようもない。
だから、宮下さんが口を開く前に私は続ける。
「そしてSNSに投稿された日付が6月29日」
「……」
「宮下さんがハーブティーを買った日は6月29日よね?」
「いや、でも、ただの偶然という可能性も……私以外にも買った人がいるかも」
「残念だけど、あの青いハーブティーは匂いがきつくて購入者が少ないのよ」
裏どりのない真っ赤な嘘である。
だが、ここはゴリ押しで進める。
「安心して。誰にも言わないから。私は赤羽メメのファンなの。色々と身バレするようなことがあったから心配して告げているだけ」
「…………誰にも言わない?」
よし。落ちた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます