第22話 夜闇乱菊①

「……どうも夜闇乱菊です」

「こんにちは。赤羽メメ・オルタです」

「オルタちゃん、コラボありがとうね」


 右目を隠した紫色の髪を持つ女の子が礼を述べる。


「いえ、こちらこそコラボ打診ありがとうございます」

「それじゃあ、さっそく『アンブレラ』をしようかな。オルタちゃんは初プレイ?」

「はい。初めてです」

「ちなみに『アンブレラ』のソフト持ってる?」

「あります。メメがやっていたので」

「これホラーだけど平気?」

「ホラー映画は普通に見ますよ。ただホラーゲームはやったことがなくて」

「ふうん。そうか。なら、最初は私がやるから見ておいてね」

「はい」


 乱菊さんはゲームを起動させると『アンブレラ』のトップ画面が現れた。


 乱菊さんは【ニューゲーム】でなく【セーブ】を選んだ。


「あれ? 続きなんですか?」

「うん。でも大丈夫。最初はオープニングムービーや面倒なシーンばっかだから。そこを飛ばして洋館に潜入するところ」

「はあ。でも、それだと私、ストーリーが分からないのですが」

「それはね……ええと、ものすごく分かりやすく説明すると、若者集団が遊びで森の奥にある謎の洋館に入ってから戻ってこないの。それで保安官の主人公達が調べに行くってところ」

「このデブのおっさんが主人公ですか?」


 目の前にデブのおっさんがいて、そのおっさんが謎の館へと進んで行く。


「違うよ。このおっさんは相棒。主人公は自分達と同視点となってる人ね。ちょっと待って」


 と言い、乱菊さんは車のウインドウに近付く。

 するとほっそりとした顔の男が写る。


「この人が主人公」

「なるほど」


 そして乱菊さんが操作する主人公が謎の洋館へと侵入する。


 ホラーゲームだけあってオドロオドロしいBGMで、床を踏む時やドアを開ける時の軋む音が私の耳朶をざわめつかせる。


「確か、これって1999年に発売されたゲームなんですよね?」

「うん」

「これって何作目のなんですか?」


 99年といえばまだグラフィックもポリゴンとかだったはず。

 でもこのゲームはかなり綺麗に出来ている。


「これは一作目だよ」

「一作目? でも、グラフィックが……」

「リライト版だよ」

「リライト版?」


 ガサガサッ。


「ぎゃあ! い、今、音が……ありませんでした?」

「リメイクと本作の裏話やら後発作品の後付け設定を足した感じ。あ、今のはたぶんネズミだね」


 主人公が裏返った鍋を持ち上げる。


「ひゃあ! キモい」

「映画の時間軸では本作の前に当たるの」


〈ぐわぁああ! アーノルド、助けてくれ!〉

〈どうしたリチャード!?〉


 相棒のおっさんが助けを求め、主人公が駆けつけると元は青年らしきゾンビがおっさんの右肩に噛みついていた。


「ぎゃあ! で、で、出た!」


 急に現れたゾンビを乱菊さんが操る保安官が拳銃を構える。


「これって相棒のおっさんを撃つとバッドエンドなんだよね」


 乱菊さんは慎重に青年ゾンビだけを狙う。


 バン!


 青年ゾンビを倒した後、ムービーシーンが始まった。


 主人公達はまだこれがゾンビと分かっていないらしく、撃ってしまったことに後悔を感じつつ、死体から身元がわかるものを探す。


「ゾンビって、やっぱフィクションの中だけで実際は存在しないと考えているから、この捜査官達も意識が朦朧としたからと理解しているのかな? そう思わないオルタちゃん?」

「いえ、あの、なんか、エグい」


 ゾンビがかなりエグいんですけど。それで乱菊さんの話が頭に入ってこない。主人公達もポケットやら服をめくったりして調べているけど、腐敗した肉体から発する匂いでえずいている。匂いは分からないけど、見てるだけでえずいちゃうよ。


「というか、相棒のおっさんは噛まれたけど大丈夫なんですかね? だって噛まれたらゾンビになるんでしょ?」

「うん。時間差でゾンビ化だね」

「え? なら?」

「残念だけど、この時点では主人公達はそうなるとは考えてなくて──」

「うっぎゃあ!」


 ふとゾンビの左腕がぼとりと落ち、さらにそこから血ではなく、白いブツブツしたものがこぼれ落ちる。


「え? 蛆? 蛆虫なの? うわ、うわ、キモい」


 そして主人公達は尻ポケットから財布を見つけ、そこから免許証を手に入れる。そしてなんとそれが探していた若者達の一人と判明する。


 ムービーシーンが終わり、乱菊さんはゲームを再開して、薄暗い館の中を捜索する。


 バタバタバタバタ。


「ななな、何!? ネズミではないですよね? デカかったですよね?」


 人が走り回る音のようなデカさだった。


「よし。1階はもう何もないね。次は2階に行ってみよう」


 1階を調べ終わったので廊下に出て、2階へと向かう。


「オルタちゃんはどこを調べたらいいと思う?」

「え、えっと、あー、右の部屋? そこに白いドアがありますよね?」

「これね」


 部屋の中は荒らされ、かなりぐちゃぐちゃ。椅子は壊されて転がり、窓は割れ、箪笥の服は破られて床に散らばり、ベッドの上は掛け布団が羽毛がだったのか、布団が破れて羽毛が山のように床の下に積もっている。


 乱菊さんは机を調べ始める。


「こういうのって日記が残っているのが定番よね」


 言葉通り、日記が見つかった。


「ふむ。これといった……おっと! 最後のページにヒントがあるよ」


 そこには怪我を負った白衣の男を館で保護したと書いてある。


 そこで過去のムービーシーンが始まる。


 雨の日、車が木々に挟まれた車道を走る。そこへ傷を負った謎の白衣の男が前方から現れる。場面は変わって屋敷の一室に。そこで白衣の男は館の主人に傷の手当ての件と一宿一飯の礼を述べている。


 そしてその晩、見回りをしていた老執事が館を徘徊している白衣の男を見つけ、声をかける。

 が、男はゾンビ化して老執事の首に噛み付く。


 その老執事の悲鳴は少女の部屋にまで響き渡る。


 寝ていた少女は驚き、目が覚める。


 そしてドアを開けると……。


 残念ながら過去のムービーシーンはそこで終わった。


「あの白衣の男が原因と?」

「だろうね」

「この部屋は……少女の部屋?」


 主人公達も白衣の男がこの館の惨状に関係とある推理している。


『来るぞ!』

『きゃあああ』


「あれ? 何かな? コメントに……」

「駄目だよ。オルタちゃん! コメントは見ては?」

「え!?」

「ほらムービーシーンが終わるよ」

「あ、はい」


 主人公が日記を机に置き、ふと後ろを振り向くと、


「ぎぃやあああ!」


 なんと過去のムービーシーンで出ていた白衣の男ゾンビいたのだ。


「撃って! 撃って!」

「えい!」


 バン! バン! バン!


 乱菊が操作するアーノルドは拳銃を発砲させ、ゾンビを撃ち抜く。


「た、倒した?」

「うん。もう大丈夫」


〈すまないアーノルド、腕が痛くて〉

〈気にするな〉


 相棒のおっさんが苦しそうに噛まれた右肩を左手で掴んで言う。


「このおっさん、使えないしゾンビ化するんだからここで撃ち殺せばいいのに」

「オルタちゃん、ドライ」

「すみません」

「ううん。いいの」

「あっ! さっきのドタバタって、こいつだったんですかね?」

「ゾンビは走らないよ」

「そっか。それはよかっ……たじゃない? え? じゃあ? あの音は?」

「うん。確かめに行こう」

「ええ!?」

「でも、まずはこの白衣の男を調べないとね」

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