第23話 夜闇乱菊②

 館の3階へと進み、部屋を捜索すると少女に出会した。


 少女は主人公に気付いて安堵の声を漏らすが、相棒のおっさんを見ると逃げて行った。

 主人公達は一体どういうことだと少女の後を追う。


「これって明らかにおっさんが原因だよね?」

「うん。……オルタちゃんはそんなにおっさんを殺したいの?」

「なんというか、このおっさんはゾンビになると分かっているなら早めに芽は摘んでおきたいというか……」

「なるほど。不安要素はさっさと無くしたいタイプなんだね」

「はい。そうです」

「なら安心して。ここでおっさんと二手に別れるの」

「そっか。よかった。じゃねーーー! これ絶対次に会ったらゾンビ化しとるやつやん?」

「オルタちゃんって関西人」

「違います。つい」


 そして相棒のおっさんとは別れ、主人公は館を捜索する。


〈きゃあーーー!〉


「のわっ!」

「リスナーさんへ、今のは少女の悲鳴とそれに驚くオルタちゃんです」

「説明しなくいいです!」


 悲鳴の方へ進むと少女を大部屋で見つけた。

 だが、そこに女のゾンビがいた。


 バン! バン! カチッ!


「あれ? 弾切れだ?」

「え? どうするんです」


 2発命中してゾンビは倒れたけどまだ生きている。いや、ゾンビだから生きてるってのは違うか。ええと……なんて言えばいいの?


「リロードっと」


 乱菊さんはさっと銃弾を詰め終えて、ゾンビを銃撃。


 バン! バン!


「これでいいかな?」

「乱菊さん、まだ微弱ですが動いてます」


 バン!


 そのトドメの1発で女ゾンビは動かなくなった。


 そしてまたムービーシーンに入り、少女があの夜にあったことを語り出す。


 ゾンビが館の人間達を次々と襲い、ゾンビが増えて大変な状態になり、さらに雷で電話線がおかしくなってしまい、外へ連絡が出来なかったこと。そしてとうとう生き残ったのは少女一人だということを主人公は知る。


 その衝撃の事実を知り、主人公はある事実に直面する。


〈噛まれた者はゾンビになる? それじゃあ……リチャードは?〉

〈リチャード? あの肩を噛まれた人? それならもう無……きゃあ!〉


 少女が主人公の後ろを指差して悲鳴を上げる。

 主人公が振り向くとそこには──。


〈リチャード!〉


 相棒のおっさんは俯きながら、とぼとぼとした足取りで主人公に近付く。


〈撃って! あれはもうゾンビよ!〉


 少女が悲鳴を上げる。


〈リチャード! 返事をしてくれ!〉


 主人公は銃を構えつつ、相棒のおっさんに言葉を投げる。


〈ウッウウ、アウ、ウべ、ウウ〉

〈リチャーーード!〉

〈撃つのよ! 撃たなきゃあ、私達がやられるわ!〉


「ゾンビになってるじゃん。なぜ撃たないの?」

「そうだね。ちなみにオルタちゃんはもし身近な人がゾンビになったら撃てる?」

「それは……」

「葛藤しちゃうよね」

「乱菊さんは?」

「即ぶち抜くよ」

「ドラーイ」

「フフッ」


 否定しないのかい。


【リチャードを撃つ】

【リチャードを撃たない】


「あの、なんか選択肢が現れたんですけど」

「そうだね。オルタちゃんはどれを選ぶ?」

「え? 私?」


 普通に考えたら【撃つ】を選ぶんだけど。

 これは罠かな?

 う〜ん?


「…………【撃たない】で」

「いいの?」

「はい」


 まあ、ゲームだもん。別にバッドエンドになってもいいや。


〈リチャード! お願いだ返事をしてくれ!〉

〈ア、ア、アーノ、ルド〉

〈意識はあるな。良かった〉


 主人公は胸を撫で下ろす。


〈どうして?〉

〈リチャードはまだ大丈夫だ〉

〈でも、いつかは〉

〈助かる手はあるはずだ〉


「いや、ないでしょう」


 つい私はツッコミを入れた。


「助けておいてそれを言う?」

「うっ!」


〈さあ、今すぐここを出よう〉

〈待って!〉

〈何だ?〉

〈母がいるの。でも、足が悪くて外へ出られないの〉

〈そうか。リチャード、お前は先に車に戻るんだ〉

〈……わ、わかった〉


 リチャードはゆっくりとした足取りで部屋を出る。


〈こっちよ〉


 そして主人公と少女はリチャードとは反対方向に進む。

 この後、主人公はゾンビを倒しつつ、少女と共に館の奥へと進む。


  ◯


〈ここの奥に母がいるの?〉


 少女に導かれて主人公はとある部屋へ通される。

 けれど、そこには人の姿はなかった。


〈どういう……〉


 主人公が後ろの少女へと振り向いた時、おもいっきり突き飛ばされる。少女程度の力なら別に尻餅をつくことはない。ただ、後ろへタタラを踏む程度。


 でも、それで良かったのだろう。

 床のマットに主人公の足が着いたとき、マットごと下へと沈んだ。


〈のわっ!〉


 床は抜けていて主人公は1階へと落ちたのだ。

 あのマットは穴を隠すためのものだった。


〈イテテテ、どういうことだ?〉

〈ごめんさい。母はお腹を空かせているの?〉

〈グガガガ〉


 唸り声に振り向くと巨大な肌のない肉の塊となった化け物がいた。


「ぎゃあああ! ゾンビじゃない? 何これ?」

「ゾンビだよ。オルタちゃん」

「どこが? 肉の塊じゃん?」

「進化したんだよ」

「何に?」


〈グギャアァァァ!〉


 化け物は雄叫びを上げ、主人公に襲いかかる。


「きゃあぁぁぉ! どうすんの? これ? 拳銃で倒せるの?」


 バン、バン、バン。


 乱菊さんは主人公に拳銃を発砲させる。


「駄目だ。ぜんぜん効いてないや」

「ど、ど、どうするんですか?」

「何かないか探さないと。私が逃げ続けるからオルタちゃんは何かないか調べて」

「はい」


 乱菊さんは化け物を銃で牽制しつつ、一定の距離で逃げる。


 そして私は画面をじっと見て、使えそうな物を見つけようとするけど。


「うぐっ、気持ち悪い」

「え? どうしたのオルタちゃん?」

「画面がぐるぐるして気持ち悪い」

「ええ!? ゲーム酔い?」

「すみません。……えっと、ナイフやフォークがあったんでそれを使うとか?」

「本当だ。ということは……ここは食堂だね」

「そう……ですね」


 私は気分が悪いので薄目で答える。


「キッチンが近いのかな? そしたらガス爆発できそうだけど」

「あ、ガス爆発ですか? いいですね」

「キッチンはどこかな?」

「え? あ? えっと……あ!? そこに扉が」

「これは大きな廊下に繋がる扉じゃない?」


 確かによく見ると廊下に繋がる扉みたいだ。


「え? それじゃあ、ええと、あ!? あれ!? 右にちらっと見えた扉。銀色の!」

「ああ、あれね」


 乱菊さんは主人公を操作して銀色の扉へと入る。

 でも開かなかった。


「あら。入れないようになってる」

「え? あ、じゃあ、穴は? 下に穴とかないですか? 乱菊さん、少し……動きがはや……い」


 速く動くたびに画面が揺れて気持ち悪い。


「ごめんね。敵の攻撃を避けないといけないから」

「あ、あれはだ。あそこに穴が」

「入ってみるね」


 乱菊さんは主人公をしゃがませて、そして穴へと潜る。


 穴の向こうは予想通りキッチンで、すぐに乱菊さんはガスを漏れをさせる。すると画面左にガス漏れ度を示す数値が現れた。


「よし、あとはここへ化け物を連れ込めばいいんだね」

「どうやってですか?」

「あの扉の前の瓦礫をどかせばあのクリーチャーも入って来れるんじゃない?」

「いいですね」

「でもそのあとはどうしよう?」

「ん?」

「だってここでガス爆発させたら主人公も死ぬんじゃない?」

「あ!?」

「忘れてたの?」

「すみません。忘れてました。なら化け物が入ってきたらまた穴から向こうに出るというのは? それで穴に向けて銃を発砲するとか?」

「いいね。それでいこう」


 そして乱菊さんは扉の前の瓦礫をどかして化け物をキッチンへ呼び出す。


「はやく! はやく!」

「急かさないでオルタちゃん」


 主人公を穴から外へ出して、それから穴に向けて銃を発砲。


 ダッカーーーン!


 大きな爆発で壁も崩壊、さらに主人公も吹き飛ばされる。


「だ、だ、大丈夫なの?」


 ゲームオーバーの文字は出ていないからセーフ?


「お! 起き上がった!」


 主人公がうめきながらも起き上がる。


「さてどうしようか?」

「う〜ん。ボスは倒したし、車に戻るのでは?」

「あれ? オルタちゃん。忘れてない?」

「何をですか?」

「少女だよ」

「ああ! あの裏切り者!」


  ◯


 少女を見つけて追いかけるも、足が早く角の向こうへと消えた。


「速い! 待て!」


 角の向こうから少女の悲鳴が聞こえた。


 なんだろうと主人公も角を曲がると、リチャードが少女に噛みついていた。


「リチャードがファインプレー」

「けどリチャード、ゾンビになってません?」

「うん。なってる。少女を食い殺したら撃とうか」


【少女を撃つ】

【リチャードを撃つ】


「また選択肢が現れましたよ」

「うん。どっちがいいかな?」

「少女で?」

「どうして?」

「リチャードは味方だし。少女は敵。それに少女は噛まれているからゾンビになるしね」

「分かった。少女を撃つね」


 乱菊さんは少女を撃った。


 少女が亡き後、リチャードゾンビはうめき声を上げつつ、主人公に近寄る。


【撃つ】

【撃たない】


「え? ここで選択肢?」

「そうみたいだね? どうする?」

「ええ!? し、信じて撃たない?」

「ゾンビ化してるよ?」

「でもあえて選択肢が出るってことは……大丈夫?」

「分かった。【撃たない】だね」


 乱菊さんは【撃たない】を選んだ。

 するとムービーシーンが始まった。


〈リチャード、お、俺は……〉


 主人公はリチャードに銃を向けるが腕が震えている。


 ゆっくりと、ゆっくりと近付くリチャード。

 そして──。


〈う、撃て〉


「え? 喋った!?」


〈たの、む、撃ってく、れ〉

〈リチャーーード!〉


 主人公は泣きながらトリガー引く。


  ◯


「今日は『アンブレラ』のゲーム実況に付き合ってくれてありがとうね」

「いえいえ、こちらこそ楽しかったです」


 だけど叫びすぎたせいか喉が痛いな。


「ちなみにオルタちゃんは好きなシーンはあった?」


 好きなシーンか。う〜ん。


「やっぱ最後のあれですかね。リチャードがかすかに意識があって、主人公に最後を頼むシーン」

「やっぱりそこだよね。あのシーンは作中でも屈指のシーンだからね。同人でも色々使われているんだよ」

「どうじん?」

「同人誌」

「どうじん……し?」


 何それ?


「知らない?」

「すみません。聞いたことなくて」

「ええと、ファンが作った本なの。自費出版って分かる?」

「自費出版ですか? それなら分かります」

「オルタちゃんは興味ある?」

「いえ、初めて聞いたのどんなのかよく分かりません」

「……そっか」


 声音で乱菊さんが落ち込んだのが分かる。

 え、どうしよう。ええとファンの自費出版だから……ええと。


「で、でも妹は結構オタクなので、妹なら興味があると思いますよ」

「本当?」

「たぶん」

「じゃあ、メメちゃんにオススメを送っても問題ない?」

「え? あ、はい、たぶん」

「そっか〜」

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