第21話 花右京トビ

「どうもー、みんなー、花右京トビだよー。こんにちはー」


 髪がピンク色の可愛い女の子が手を振る。今日は2期生の花右京トビとの配信コラボ。


 それにしてもこの先輩さん、見た目もだけど、声もすごく可愛い。

 これって作ってるんだよね。佳奈と同じ声優出身者かな?


「私は赤羽メメ・オルタです。オルタと呼んでくださーい」

「わー。パチパチ」


 トビさんアバターが拍手する。


「私はまだVtuberとしてまだ右も左も分からない身ですが、トビ先輩よろしくお願いしまーす」

「先輩はいいよ。でもオルタちゃん、貫禄あるんじゃなーい」

「ありませんー」

「メメのガチ姉って、本当?」

「よく聞かれますけど、そうですよ。あと、設定としては別側面の人格ってことなんです」


 自分で言っておいてなんだけど、すでに姉ってバレてるのに別人格って設定必要かな?


「アハ、そうなんだ。よろしくねー」


  ◯


「それじゃあ、『決闘スラッシュナイト』をプレイしよっか」

「はい」

「オルタちゃんはこのゲームやったことある?」

「コラボで誘われる前まではやったことないです」

「お! てことは私を倒すため練習したんだなー」

「え? 違いますよ。ど素人で足を引っ張ってはなんですから練習をしたんです。というかタッグ戦や大乱戦じゃないのですか?」


 このゲームは一応格闘ゲームであるが、大乱戦が主にメインである。

 大乱戦は4〜30名ほどのプレイヤーが集まり、広大なフィールドで戦い合うという乱戦もの。

 ダッグ戦は二人一組となり、相手方の一組と戦い合うもの。


「もちろん、タッグ戦も大乱戦もやるけど、ちょっとバトりましょうよ」


 バトり……戦闘のことかな?


「はい。やりましょうー」

「楽しみー」


 トビさんは明るい声で言う。

 なんか優しい先輩だな。


  ◯


 まずはタッグ戦からだった。

 バトルの前にキャラクター選択を始める。


(ここは先輩を先に選んでもらってかな?)


 トビさんはサキュバスキャラを選択して、私は鎧を着込んだ男騎士を選択。


「お、普通だねー」

「トビさんは攻めてますね」


 サキュバスキャラは胸元を出したミニスカのセクシーキャラ。清楚キャラのトビさんとは正反対。


「私は性能厨だから」

「なるほどー」


 練習したと言ったが全キャラを使ったことはなく、それに佳奈からオススメのキャラを選び慣れるため練習した程度。


「トビさんはお強いんですか?」

「普通、本当に普通。ペーメンでは下の方だよー」


 ペーメンとはペイベックスVtuberメンバーのことで、それがペイメン、そしてペーメンとなったらしい。


「それじゃあ、始めようか」

「はい」


 タッグ戦をスタートさせるとマッチングが始まり、数秒で対戦相手が見つかった。

 相手はふざけたハンドルネームのプレイヤーだった。


「よし。いくか」


(ん?)


 今、声変わり前の男子のような声が聞こえたような。


「オルタちゃん、準備は?」

「あ、はい。いつでも」

「よーし。スタート!」


 明るい声でトビさんは言う。


(さっきのは聞き違い?)


 私達はスタートを押す。

 画面は荒野となり、私こと騎士とサキュバスのトビさん、相手方はスライムキャラとゾンビキャラだった。


「うわっ、キモ」


 低い声がまた。


 これって地声?


「そう思わない? オルタちゃん?」

「……本当ですね」


 そして戦闘が始まった。


  ◯


「はい雑魚。らっくしょー!」


 私達は敵チームを苦にもなく倒した。


「こんなふざけたチームに負けないっつうの」

「……先輩、声が」


 リスナーのコメントにも、


『この短時間で声変わりしちゃいましたか?』

『トビさん、ハジけると声が変わる』

『通常運転』

『まだ、これが序盤なんだぜ』


「え? ああ、ごめん。ついハジけちゃった」


 元の可愛らしい声に戻り、次のバトルが始まる。


 次のフィールドは氷のリングで、対戦相手はゴリラキャラと帽子をかぶった少年。


「よーし。いくぞー!」

「……おー!」


  ◯


「こいつ強い!」


 私の攻撃がゴリラに防がれ、カウンターで攻撃を受ける。さらによろめいたところをおおきく投げ飛ばされる。


「クソ! 縄跳びが! 卑怯だ!」


 トビさんは少年に縄跳びで動きを封じられ、バットで殴られていた。


「クソゴリラ踏むな!」

「トビさん、助けに行きます!」


 私はダッシュでゴリラに突っ込み、ふっ飛ばそうとするもゴリラは上に跳び、私をかわす。そして私の背を叩き、前へ飛ばす。そこへ少年によりバットでフルスイングされ、私は場外へ吹き飛ばされる。


「トビさん、すみません。やられました」


 でもこのゲームは3回やられたら終わりで、私はまだ1回目である。


 すぐにキャラが復活して、私はトビさんを助けに行く。

 敵達は次に私へとターゲットを決め、攻撃をしてくる。


 連携が上手く、私は防戦一方。


「トビさん、どちらかでいいんで、引き留めてください」

「任せて!」


 トビさんが駆け寄るが、ゴリラに掴まれて、締め技を喰らう。


「ぐっ、ちょっ、やめろ! このクソゴリラ!」


 でもそのお陰で私は1対1で少年と戦える。


「助けてオルタちゃん」

「待って下さい。この少年を倒したら……」

「ああ! 投げられた」


 トビさんのサキュバスはゴリラにより、締め技から解き放たれるが、画面の向こうに投げられる。いわゆるフレームアウト。


「やられた」


 そしてゴリラは私へと攻撃を繰り出す。


「駄目だ。二人がかりだと防ぐので手一杯」


  ◯


 そして私達はやられた。


「あいつら絶対ガチ勢じゃん」


 トビさんは荒れ狂い、何かを叩くような音が聞こえる。


『台パンタイム』

『ゴリラ化してる』

『ガクブル』

『くわばらくわばら』


「よし。次、行こ! オルタちゃん」

「……は、はい」


  ◯


 トビさんは通常時は清楚なキャラでやられたとしても「やーん。やられた」とか「くやしーい」で済むが、相手がかなり強かったり、卑怯な手を使ったりすると荒ぶり、「テメェ、殺すぞ!」、「死ね」、「きしょいんだよ!」と暴言を放つ。


 今もまた悪質なプレイヤーがいて、ハメ技で酷い目に遭い負けたところ。


 トビさんは荒れ、しばらくは私のことを無視してわめいていた。


 その際にバンバンという謎の音はコントローラーをテーブルに叩いている音だと知った。そしてそれを台パンと呼ばれているということも。


 私はトビさんが落ち着いてから、


「あー、トビさん、そろそろ大乱戦に行きません?」

「そうだね」


  ◯


「てめ、離れろ! 来んな! 近付くな! お前ら卑怯だぞ! リンチやめろ! てめら絶対童貞だろ? だから女を責めてんだろ! きしょいんだよ! ああ! もー! ウゼエーーー! 死ねや!」


 駄目だ。大乱戦でものすごく荒れていらっしゃる。

 初めの清楚で可愛いらしい子はどこに。


『通常運転』

『鼓膜破壊やめて!』

『ヤンキーゴーホーム』

『台パンやめて』

『女王はお怒りですな』


 コメントを読む限り、これがトビさんの本性らしいけど。


  ◯


 大乱戦の後、トビさんとの1対1のバトルがあった。

 ……言うまでもないが私は接待をした。

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