第19話 今後について【宮下佳奈】
オルタこと姉の『魔法少年マナカ・マグラ』第6話の録画が終わった。
「お疲れ。一気に計3話分進めたね」
「疲れた。喉痛い」
「はい、水」
私はミネラルウォーターのペットボトルを渡す。
「ん、ありがと」
「あとね、お姉ちゃんにコラボの話が来てるんだけど」
「ええ!? またコラボ!? 本職ではないんだから」
姉は私からしたら嬉しいコラボ話を嫌がる。
「蹴ることはできない?」
しかも無下に断ろとまでしている。
「たくさんきてるの」
私はプリントを姉に渡す。
「うげっ。こんなに? 嫌だよ」
「この中から二つでいいから」
本当は一つ二つと福原さんに言われていたが、私は二つと言う。
「オススメってある?」
オススメと聞かれて私は嘘をついた。
「ええと……花右京トビと夜闇乱菊かな」
「へえ。『ゲームは決闘スラッシュナイト』と『アンブレラ』か。……『アンブレラ』?」
「知らない?」
「知ってるよ。ホラーゲームでしょ? 映画化もされたやつでしょ?」
「何、怖い?」
「そうじゃなくて、これって1人用だよね?」
「そうだよ」
ホラーアクションゲーム『アンブレラ』は1人プレイ用である。
「え? これでコラボって何するの?」
「えーとね。たぶん乱菊が遊んで、お姉ちゃんは喋るみたいな?」
と言うと姉は訝しんだ。
「それ私、必要ある?」
「まあ、怖がっとけばいいんじゃない? もしくはお姉ちゃんがプレイするみたいな?」
「持ってるの? 『アンブレラ』?」
「持ってるよ」
私は棚からゲームパッケージを取り出す。
「あれ? これ? プレイガレージ5のソフトじゃん」
「そうだけど。それが?」
「え? プレイガレージ5も持ってんの?」
「あるよ。ほら、そこ」
私はラック三段目を指差す。スロッチから少し離れてプレイガレージ5がある。
「お! 本当だ! プレイガレージ5も持ってるんだ!」
「スロッチの時に気付かなかった?」
「スロッチにしか目がいってなかったわ。……て、ことはZ・BOXもある?」
「それはない」
「なーんだ。でもなんで『アンブレラ』を持ってんの? ホラーとか好きだった?」
「ああ、これは会社からの指令だね」
「指令? 何それ?」
「『アンブレラ』には、うちの声優とアーティストを使ったからね。まあ、宣伝みたいなものよ」
「へえ。それでその指令を受けてやったんだ?」
「そりゃあ会社から指定されたところはちゃんとやったよ」
「指令の次は指定かよ」
「所属Vtuber達による、とあるシーンの各実況を
私はスマホで当時の纏め映像を姉に見せる。
サムネにはVtuber達による『アンブレラ』のあの名シーンを各々による実況集と書かれている。
「ふうん」
「まあ、私は指定以外にも、色々とやったってところかな」
私は配信とは別に一応最後までプレイし、エンディングを見た。
「あれ? でもそれって、前にやったってことだよね。今更感ない?」
「指令を受けたのって所属Vtuber全員ではないからね。たぶん乱菊は指令を受けてなかったんだよ」
◯
翌々日、『魔法少年マナカ・マグラ』の第7話から第9話までの録画を終わらせて、
「今日はペイベックス上半期大型コラボイベントの発表日だよ」
「何それ?」
「言葉通りのVtuberのイベントだよ」
「……私も出ないといけない?」
「お姉ちゃんは正式なVtuberでもないし、アバターも私のもう一つの姿ってことだから。私が参加したらお姉ちゃんは参加できないよ」
「そうなんだ。良かった」
心底ほっとした様子の姉。
私なら参加出来ないと知るとショックを受けるんだけど。
◯
『はーい。ペイベックス2期生の白狼閣リリィでーす』
ケモ耳、白髪の女の子が明るい笑顔でこちら側に手を振る。
『同じく2期生の紅焔アメージャです』
次にケモ耳、赤髪の女の子が笑顔で手を振る。
『今日はとうとう上半期大型イベント内容の発表となってまーす』
『違うよ。正確には今から決まって、それを発表だよ』
『あ、そうだったね。ちなみに何で決まるの?』
『もー! さっき説明受けてたじゃない。ルーレットよ。ほら、あれで!』
アメージャが指差す方向にはルーレットがある。
『あれにリリィがダーツを投げて、刺さったマスが今回のイベントだよ』
『なるほど、なるほどー。マスに刺さったところねー。てか、毎年ルーレットじゃん』
とリリィは笑う。
『分かってるなら聞かないでよ!』
『ふむふむ。スラッシュナイトにドラムの達人、ぽよぽよ、あとは……ハリカー! え!? ハリカーがあるよ! なんで?』
画面がルーレットを映す。
そこには小さいマスの中にハリカーがあった。全体の5%ほどだろうか。
『さあ? 分かんなーい。大人の事情的な何かではー?』
アメージャは両手の平を上にして、分からないと言う。
『ここでハリカーを刺してしまえば炎上しそうなんだけど』
『がーんば!』
アメージャはキャピキャピした声で応援する。
『責任重大じゃない? ねえ? 役目変わらない?』
『あん? 絶対無理。さっさと投げろ』
ドスの効いた低い声音でアメージャは言う。
『うぅ、仕方ない投げるか』
リリィはダーツ持ち、構える。
『待った! 私がルーレットを回したら投げてね』
アメージャは急いでルーレットに駆け寄り、そして手を振って、
『回すよー』
『よおし! いっくぞー!』
アメージャがルーレットを回転させ、リリィはダーツを投げるが──そのダーツはルーレットに当たる前にかなり手前の地面に突き刺さる。
『下手くそー!』
アメージャが罵倒する。
『るっせー! ダーツなんて初めてなんだからー!』
リリィはダーツを拾い、そしてまた構える。
『回すぞー! 当てろよ!』
今度は強くダーツを投げるリリィ。
けれどダーツは明後日の方向に飛んでいった。
『どこ投げてんだよー!』
アメージャはキレて地団駄を踏む。
『ごめんー』
リリィはダーツを取りに行き、また元の定位置に戻ろうとするが、
『リリィ、待って、カンペ出てる。……近くから投げて良いって』
『あ、まじで? やった。それは助かるよー』
リリィは半分ほどの距離に立ち、
『ここから投げるね』
『オッケー、オッケー。ルーレット回すぞ!』
『おう!』
アメージャがルーレットを回転させ、リリィがダーツを投げる。
今度はきちんと刺さった。
『えーと、今度のイベント内容は……』
『嘘だろー!』
ダーツが刺さったマスを見て、リリィが崩れ落ちる。
『次のイベントはハリカーになりましたー』
◯
「なんでハリカーでショックを受けてるの?」
姉が不思議そうに聞く。
「ハリカー大会はね、正月に毎年恒例でやってるんだよ」
「そうなんだ」
「だからハリカー大会をやってもねえ〜。まあ、下半期でなくて良かったよ。下半期だったら大ブーイングだよ」
「そうだね。同じイベントを短期間でやるとなるとしらけるよね」
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