第18話 打ち合わせ【宮下佳奈】
今日は月一ある打ち合わせの日。
場所はペイベックスビルの5階の会議室。
15分前に私が入室すると福原マネージャーと3人の同期がいた。
「おはようございます」
『おはようございます』
私は
黒狼ミカゲは口数は少ないが人の話をきちんと聞く、まとめ役である。コラボとかでは進行やツッコミ役をよく務めている。
アバターは黒髪の理知的な女性キャラ。
「皆、早いね」
「まあね〜」
お色気むんむんのお姉さんがナヨっぽく言う。
(普段は私より遅いくせに)
この人は
「あとはマイだけ?」
「いつのもことだよね」
「リーダーなんだからガツンと言いなよ」
「リーダーと言っても形だけだよ」
ヒスイは5期生のリーダー。アバターは赤髪ショートカットヘアーの男勝りの女性。
リーダーと言ってもこの中で早くデビューしたから選ばれたからであって、ヒスイのいうとおり実際は形だけ。
アバターは男勝りな女性キャラなのに中身は大人な女性で、配信時に素が出てしまい、それがギャップで良いということで人気を博している。
「どうぞ」
福原さんからプリントを手渡される。
時間になり、少し経ってから
「どうもー」
『おはようございます』
「松竹マイさん、遅刻ですよ」
福原さんが溜め息交じりに注意する。
「うっそー。時計だとジャストなんだけど」
とマイは右手の腕時計を見て言う。
「ま、いいじゃない。数分くらい。どうせフジが最後なんだし」
「私はもういるんですけど!」
「あれ? 本当だ? なんで? いつも厚化粧で遅刻するのに?」
「厚化粧なんかするかい!」
「アハハハ」
フジはこの中で一番年上なため度々年増ネタでいじられる。
「やーん、こわーい」
とマイは言い、ヒスイの隣に座る。
「リーダー、ヘルプミー」
「こういう時だけリーダー扱いしないでー」
「そうだ! 清楚な声を出すな!」
「だってそれが私なんだもーん」
そう。松竹マイのアバターはいかにも異性の庇護欲を刺激する紫色のヘアーした小動物系清楚キャラである。
最後に入室したマイのもとにプリントが渡される。距離的に遠いので間の有流間ヒスイが受け取り、それをマイに手渡す。
「では会議を始めます」
「先日提出させてもらったコラボ希望案ですが、採用されたのは以下の通りとなります。
有流間ヒスイ、テルマとのコラボ成立。
黒狼ミカゲ、さち美とのコラボ成立。
那須鷹フジ、サラサとのコラボ成立。
赤羽メメ、アキノとのコラボ成立。
松竹マイ、ティファとのコラボ成立。以上となります。スゲジュールは次のプリントに書いてありますので」
「えー! 星空みはりは駄目だったの?」
マイが不満そうな声を出す。
「お前、また希望出したのかよ」
フジが呆れたように言う。
「だって〜」
「次に先方からのコラボ案がきています。
有流間ヒスイはテルマとのコラボ案が来ています。
黒狼ミカゲはさち美から。
そして那須鷹フジはサラサ、ハル、セレンからコラボが来ています。
赤羽メメはさち美、セレンからコラボが来ています。
松竹マイはユキノ、葵からコラボが来ています。
そして赤羽メメと松竹マイには大規模コラボの人狼ゲーム『封鎖海中パーク・カルぺ』のコラボが来ています。ホストはサラサです」
「私、コラボ少なーい」
マイが不満気に言う。
「いや、私とミカゲなんて1名だよ。やばいわー。しかもぶっちゃけ相互だよ」
ヒスイがプリントを見て、ショックの声を上げる。
「メメが多いのはなんで? やっぱオルタ?」
マイの質問にドキッとする。
「え? 多いかな? 2人だよ」
「ここんとこ1人だったじゃん。オルタ効果?」
「さあ? それはなんとも」
そこで福原さんが咳払いして、
「返事については今月末までにお願い致します」
◯
「では、今月の打ち合わせを終了いたします。お疲れ様です」
福原さんが皆に一礼する。
それに私達も、『お疲れ様です』と返す。
福原マネジャーが出て行ったあと、
「ねえ、これから皆で食べに行こうよ」
普段は誘われる側のマイが皆を食事に誘う。
「うん。いいね」
と5期生リーダーのヒスイが返事する。
それから残りの皆も「いいよ」と返事をする。
食事はマイが紹介した小洒落た洋風レストランだった。
「ここのオムライス美味しいのよ」
「へえ。じゃあ、皆それにする?」
「ヒスイ、皆、同じ物を注文するってやばくない?」
ミカゲが突っ込む。
「でもオムライスって色々あるよ」
メニュー表にはケチャップオムライス、チーズオムライス、デミグラスオムライス、ハンバーグオムライスがある。
さらにプラス150円でデラックスサイズに変更可能。
……というかオムライスがオススメでなくてオムライス店じゃないの?
一応、他のメニューもあるけどオムライスが圧倒的に多い。
◯
「フジは相変わらずコラボめっちゃ来てたよね」
オムライスを食しつつマイが話を振る。
「いやいや、あれはもう色々と繋がりを作ってたから。でも、こっちからの希望は駄目だったな」
「えー? なんでー?」
「1期生にも希望だしだけど。全滅だ」
と言いフジは肩を落とす。
「でも多いじゃん」
「まあねー」
私達の中で一番多いが、本人からしたら少ない方なのだろう。
「凸とかもめっちゃがんばってたよね」
「うん。漏らさないように凸ったよ」
凸とは突撃のことで。凸待ちしている相手にコンタクト取ることである。
そして凸待ちは相手の来訪を待つことである。
フジは凸待ちしているVtuberにコンタクトを取り、会話をして仲良くしている。
それはもう誰かれ構わずに。
人見知りがある私には少し苦手だが、フジは持ち前の明るさと人懐っこさで相手の懐に入り、仲良くなる。
しかし、それでもコラボは3つか。先月は5つもあったのに。
「ねえオルタちゃんにはコラボはなかったけど? なんで? てか、打ち合わせに来るかなって思ってたのに?」
ふと私にマイから質問が来る。
「姉は素人だから。臨時でちょっとだけ出演する感じだよ」
「ええ! リアルなの? あれ?」
「うん。本当に事故でね」
アハハと私は笑う。
「へえー、本当の姉なんだー」
ミカゲが驚きの声を出す。
「なんで星空みはり先輩とコラボできたの?」
「あ、それ私も気になる」
マイの問いにヒスイも追従する。
「それは私にも理由が不明で?」
「ふうん」
「それより今度の上半期イベントは何かな?」
私は話を逸らしたくて上半期イベントについて聞く。
上半期イベントはペイベックスの上半期大型Vtuberイベント大会で所属するVtuber全員が参加のイベントである。
売れないVtuberはここで名を売ろうと頑張っていて、かくいう私達5期生もこのイベントに今後をかけている。
そのため知らされていないイベント内容についていくつかゲーム候補を絞っている。
噂ではハリオ関係のゲームと言われている。
「今週発表だっけ?」
ミカゲが首を傾げる。
「うん。今週末」
「何だろうね」
「ハリオって噂でしょ?」
とスイが私に聞く。
「うん。噂ではね」
「どこからの噂よ」
フジが疑わしいという風に聞いてくる。
「3期生の配信でね」
「あー、だからか。ここ最近、Vtuberでハリオのゲームが多いのは。コラボでめっちゃハリオ関連のゲームやったよ」
フジは溜め息交じりに言う。
「大変だね」
「前はルーレットで決めてたよね? 今年も?」
「かもね」
「ハリカーくるかな?」
『それはない』
フジの問いに私達はハモって答える。
見事にハモったので私達は笑った。
ハリカーは正月にペイベックス新春ハリカー大会が開催されているのだ。
ゆえに上半期の最後に新春と同じイベントはしないと私達は考えている。
それは他のVtuberもそう考えているようで、ハリオ関連のゲーム実況が多くてもハリカーだけはなかった。
◯
皆との食事の後、私達は駅で別れた。けれど私はこっそりとペイベックス本社へと戻った。
「ごめんね。遅れて」
福原さんが遅れて部屋に入ってきた。
「いえ、こちらこそ食事が長引いて」
本当は打ち合わせが終わり、皆とすぐ別れた後でオルタの打ち合わせの予定があった。
けどマイの食事への誘いで打ち合わせは遅れてしまった。
皆にこの打ち合わせことを言えば済んだことだが、それだと今後の関係性に問題が生まれるかもしれないので、オルタの打ち合わせはひっそりと行うことと福原さんと決めたのだ。
「ではオルタちゃんの件だけど、先方からのコラボ案が結構来てる。星空みはりのコラボが原因よね」
「どうしましょうか? 姉はまだ素人ですしコラボは……難しいのでは?」
「私もそう思います。ただ全てを蹴るというのはどうかと。一つ二つはコラボに出てみては?」
その言い方はたくさんのオファーが来ているということなんだろう。
「どれだけオファー来たんですか?」
「全部で8つです」
「8つ!?」
5期生の一番コラボが多いフジでさえ唾をつけまくって3つなのに。
「4期生は全員オルタとのコラボを要求してますね」
福原さんは苦笑しつつ言う。
「どうして?」
「どうしてって、そりゃあ、波に乗っているからでしょう」
それは言われなくても分かっていた。
赤羽メメの同接、登録者、スパチャもオルタによる影響だ。
そのオルタに波が来ているのだ。だから人気低迷の4期生はここぞとばかりにオルタの波に乗ろうとオファーをしているのだ。
……私ではなく。
「お姉さんに一つ二つほどコラボに参加するよう告げておいてください」
「はい」
福原さんは一枚のプリントを差し向ける。
そこにはVtuber名、コラボ内容、日程がずらりと載っている。
「こんなに?」
こうして改めて見てみるとすごいものだ。
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