第12話 コラボが決定!
佳奈に話があると部屋に呼ばれた。
「実はお姉ちゃん、大変な話があるんだけど」
「何? もしかして反応が悪いとか?」
やはりど素人の実況はつまんないとクレームきた?
「それは問題ないの」
「なら何が?」
「コラボの話が来ているの」
「コラボ。お菓子とかの?」
よくVtuberがお菓子やらカップラーメンとコラボしているのを見かける。
「そっちじゃなくてコラボ配信」
「コラボ配信……ああ! あの他のVtuberと一緒に実況するやつね」
コラボ配信のことは佳奈から渡された取説の冊子に書いていたので知っていた。
「でも私、初心者だよ。もう少し、経験を積んだ方がいいんじゃない?」
「うん。私もそう考えたんだけどコラボがあの星空みはりなのよ!」
「……誰?」
と私が聞くと佳奈は信じられないといった顔をする。
「0期生よ! ペイベックス最初のVtuberでNo. 1の!」
佳奈がすごい圧で意気込む。
「そ、そうなんだ」
「そうなんだじゃないわよ。その星空みはりがオルタとのコラボを打診してきたのよ」
「すごいんだ」
「すごいわよ! 雲の上の殿上人が声をかけてきてくれたのよ。お姉ちゃんのために分かりやすく例えると東野カナが一緒にライブしようと誘ってくるほどよ!」
「ああ! それはすごいね。なんでそんな人がコラボを?」
「こっちが知りたいわよ。私だって誘われたことないのに。私も一緒にコラボしたいー!」
「アー」とか「モー」と奇声を上げつつ悔しそうな声を出す。
「あれ? 佳奈も一緒じゃないの?」
「私、中間テストがあるから無理」
佳奈は親との約束でテスト期間中は仕事お休みと決められているのだ。
「それじゃあ、コラボはどうするの?」
「だから悩んでるのよ」
そう言って佳奈は溜め息を吐く。
「ちなみにコラボ内容は?」
「『ジョーンズ教授のトレジャーハンター』というゲームを1時間実況プレイ。曜日は来週の水曜日、午後18時から19時」
「2時間ではないんだ」
「こっちに合わせてくれているらしい。概要にも初心者に合わせるって」
「第3話の配信もまだだし断っとく?」
「そうだね。でも私のような後輩が先輩の誘いを断るとそれはそれで……なんて言うか」
「ならマネージャーの福原さんに頼もう。赤羽メメ・オルタは初心者で次の配信の準備もあるので都合がつかないって」
「そうね。そうしましょう」
佳奈はスマホで福原さんに連絡する。
「……えっ、でも、……ええ!?」
あれ? なんか雲行きが怪しい。
佳奈は通話を終わらせると、スマホをいじり始めた。
ネット検索でもしているのかな?
しばらくして、
「お姉ちゃん、大変! これ見て!」
佳奈がスマホの画面を見せてくる。
画面には星空みはりのSNSのページで、
『話題の素人ちゃんが本物かどうかコラボで調べてやる!』
「先手を打たれたの」
「……でも、まだオルタって周りには……」
SNSには素人ちゃんがとしか書かれていない。
「掲示板ではもう賑わっているらしいよ」
「これはやらないと駄目系?」
「福原さんも先にコラボしろって……」
「まじかー」
「仕方ない。マナカ・マグラ第3話は後で、先にコラボやりましょう」
「分かった。でも、『ジョーンズ教授のトレジャーハンター』ってゲームは持ってるの?」
「ううん。ない」
「なら買っておかなきゃあ」
「ダウンロードしておく」
「パソコンゲームなの?」
「スロッチのミニゲームだよ」
スロッチとは弁天堂の最新据え置きハード機のこと。
「なら買いに行かないと」
「お姉ちゃん、今はダウンロードでもいいんだよ」
「ゲームゆえ、もう物理ですら無くなったか」
「そんなことはないよ。ネットの弁天堂ショップがあって、ミニゲーム系はそこでダウンロードできるんだよ」
「ところでスロッチ持ってんの?」
「持ってるよほら」
佳奈が机の隣にあるラックを指差す。
ラックの三段目にスロッチがあり、線でパソコンと繋がっていた。
「ある! いつから? 気付かなかった」
私はついこの前までは佳奈の部屋には滅多に入ったことがなかったから知らなかったということもあるが、スロッチがルーターように見えていたから気付かなかったという要因もあるだろう。
スロッチって意外に小さいんだ。
「Vtuberやり始めた頃から」
「あるなら言ってよ!」
「お姉ちゃん、やりたかった? オタクじゃないから興味がないと思ってた」
「そりゃあ、やりたいよ。オタクじゃなくてもスロッチのゲームはやりたいよ」
「へー、そうなんだ」
(……ん?)
何か引っかかった。
「それじゃあ、起動と配信時の設定について教えるね」
「うん」
私は佳奈からゲーム配信についての準備を教えてもらい、ついでミニゲームをすることにした。
「2人でゲームって、Wee以来じゃない?」
Weeはスロッチの2世代前の据え置きハード機で私が小学生低学年の頃に発売された。当初は今までの座って遊ぶコントローラーとは違い、振り回して遊んだりするコントローラーで、売れるかどうか危ぶまれていた。
だが一般層の大人にもウケて、ダイエット系エクササイズや知能系ゲームが爆発的流行った。
「Weeか。懐かしいね」
「覚えてるの? あんたその時、幼稚園児じゃなかった?」
「覚えてるよ。お姉ちゃんにハリカーでボッコボコにやられた」
ハリカーはハリオカートの略。ハリオシリーズのキャラクターでカート勝負するゲーム。
お助けアイテムで一発逆転のチャンスがあり、下手な子でも勝てることもあってか幅広い層にヒットしたカートゲーム。
「何よボッコボコって。格ゲーじゃないんだから。あんたの運転が下手だったのよ」
「下手じゃないし。お姉ちゃんがハマちゃって、
「そうだっけ? そういえばWeeどこにいったんだっけ?」
壊したわけではなかったような。
というか最後にやったのっていつだっけ?
十数年くらい前だから記憶が曖昧だな。
「……お姉ちゃんがハマり過ぎたので、友達来た時か正月以外は没収になったんでしょ?」
「あれ? そうだっけ?」
友達が来てもやっていなかったような。それに正月もWeeで遊んだ記憶がない。
◯
なんと佳奈は根津剣郎のことを親にまだ話していなかったのだ。
「どうしてまだ言ってないの?」
「少し時期をみて話そうと思ってたの」
「話しておきなさいよ。遅すぎると怒られるわよ」
「分かってる。今日あたりで言う」
そして晩御飯の後、佳奈は父と母に告げたのだ。
「Vtuber? あんたも?」
母がすごい形相で私を見る。
(え? そっち?)
なぜか根津剣郎のことより私のVtuberの方に食いついた我がご両親。
「待った! それよりも佳奈の配信に出たんだろ? 顔は出たのか? 身バレの危険は?」
父が眉間に皺を作りつつ聞く。
そんな深刻そうな顔をしなくてもいいのに。
「大丈夫。アバターが機能してるし。身バレとかの危険はない」
「本当に?」
母が心配そうに聞く。
「本当。というわけで私も少しだけVtuberやるから」
「それにしてもそんな事故があったなんて」
「たいした事故でもないよ。もう大袈裟ね」
私の言葉に両親は揃って盛大な溜め息を吐いたのだ。
(なによ、その反応)
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