第13話 初コラボ(上)

「スタートはまだしてなくていいんだよね。このまま待機していればいいのかな?」


 パソコン画面には『ジョーンズ教授のトレジャーハンター』のゲーム画面と私しかいない。コメント表示はオフになっている。

 魔法少年マナカ・マグラ第3話のネタバレを防ぐためである。


「そろそろ時間だ」


 午後18時ジャストに電子音が鳴った。確かディスコが繋がった音だっけ。

 そして星空みはり先輩のアバターが画面内に現れた。


「あっ! きた!」

「どうも星空みはりでーす」


 黒髪の女の子が手を振る。歳は10代くらいでアニメで見るようカラフルな制服を着ている。


「初めまして。赤羽メメ・オルタです。よろしくお願いします」

「あれ? 専用の挨拶がないぞ!」

「なんです、それ?」


 聞いたことない。そんなのあった?


「『ダメダメでもバツバツでもなーい、メメでーす』だよ。意味はメメのメはダメでもバツでもないってことを説明しているやつ」

「あれ? そんなのあったんですか?」

「うん。やってみよう!」

「えー、ダメダメでもバツバツでもなーい、メメでーす。……これオルタである私がやる必要ありました?」

「うん、ないね」

「ちょっと!」

「しかも本人やってないし」

「嘘なの!」

「ごめーん」

「もう先輩!」

「緊張はほぐれたかな?」

「肩がこりました」

「ジョーンズ教授のトレハンはっじめるよー」


 無視かい。


「オルタちゃんはこれやったことある?」

「初めてです」

「なるほどねー」


 というかそちらがするなと指定したんだしょうが。


「ここは私にどーんとまかせてねー」

「よろしくお願いしまーす」

「まずはキャラを選ぶの。どれがいい?」


 探検服を着た教授おじさんと助手である女の子しかいないんだけど。


「何か違いはあるんですか?」

「おっさんと小娘」

「そうじゃなくて役割とか」

「ないない。ぶっちゃけどれを選んでもゲームに支障はないよ」

「えーと。それじゃあ、私はこの教授を選びます」

「私が助手?」

「あっ、えっ、そうじゃなくて。可愛いキャラをどうぞという意味で」

「ああ! そういうこと? 別に私が教授でもいいんだよ?」

「いえいえ先輩にそんなおっさんキャラなんて」

「おっさんだなんて可哀想だよ」

「先輩が言ったんでしょ!」

「アハハ。まあいいや。お言葉に甘えて私は女助手を選ぶよ」


 そして私はおっさんキャラを選択する。


「じゃあ、まずはアイテムの説明ね。リュックを選択するとアイテムが現れるの。やってみて」


 私はUIのリュックを押す。

 すると私が操作するキャラの頭上にアイテム欄が現れ、そこに数多くのアイテムマークが表示される。


「アイテムが表示されました」

「この紫のフラスコを飲むとHPが回復するの」

「え? なんか紫ですけど」

「ゲームの回復アイテムなんてそんな色だよ」

「さあ飲んでみて」


 そう言われて飲んでみると、


「顔がアイテムと同じ紫色になりましたよ。え!? 口から血吐いて、倒れました! 何? これ? キモい! あっ、HPゼロ。死にましたよ」


 そして画面にはデッドエンドが表示される。


「てへ。間違えちったぜ!」

「せんぱーい!」

「リスタート押してね」


  ◯


「よし、では出発だー!」

「オー!」

「このゲームって横スクロールだけでなく、途中で色々と変わるよ。3Dモードとか、あとクイズとか」


 横スクロール? 何それと聞こうとしたら、


「あ! 先輩、でかい蛇ですよ」


 ジャングルを進んでいくとでっかい蛇に遭遇した私達。


「あれはね。アイテムの殺虫スプレーで倒すの。ちょっと使ってみて」


 私はリュックから殺虫スプレーを取り出して、試しに吹いてみる。


「そうそうそんな感じ。もう少し近付かないと」


 蛇に近付いて殺虫スプレーを吹くが、なかなか届かない。


「それにしても殺虫スプレーで蛇殺すって、おかしくありません? 蛇は爬虫類ですよ」

「本当だね。たぶん製作者もどうでもいいと思ったんでしょ」


 本当かどうか分からないが、もし本当だとしたらなんて製作者だ。


「あっ! ……切れました」

「あらら」

「どうするんです?」

「切れたらおしまいだよ」

「ええ!? じゃあ、この蛇どうするんです?」

「あとはナタで倒すかな」

「ナタ!?」

「ほら手に持ってレッツゴー」


 リュックからナタを選択して、キャラに持たせる。


「うおおお! ……あれ? 手にはしたけどどうやってナタを振るんですか?」

「近付いたら自動で振るから」


 本当だ。蛇に近付くと振り回して始めた。


 しかし、蛇が大きく口を開いて私のキャラを一気に吞み込んだ。


「なんか吞み込まれたんですけど?」


 昔テレビで首から下をバールンにいれて少しずつ空気をだしてゴムが体にピッタリさせるという芸を見たことがある。

 あれと同じことが今、起こっている。ただ今回は頭を含めた全身だけど。


 ……いやいや、おかしいでしょ?


 蛇の体がふくらむならまだしも、ピッタリはおかしいでしょ?


 製作者は頭いかれてるの?


 キャラを動かそうとボタンを連打するも変化はない。


「先輩どうすれば?」

「これはもう無理だね。助からないや。消化されるのを待って」

「待つのこれ? てか、それは死ぬってこと?」

「うん」


 少しずつ小さくなっていく。


 これって蛇の中で消化されて溶かされているってことだよね。


 ……エグいよ。


「あっ!」

「どうしたんですか? 先輩?」

「私も呑まれた!」


 もう一匹の蛇が先輩を吞み込んでいた。


「ええ!?」

「消化されるのを待つしかないね」

「何これ! シュールすぎ!」


  ◯


「先輩これは……」

「うん。あの紐を掴んで向こうへ飛び移るんだよ」


 蛇の後、もう一度最初からやり直して、私達は洞窟の中へと探検を始めていた。


 そして今、大穴によって進路を絶たれた。天井からは紐がぶら下がり、そして大穴には落ちたら突き刺さるように槍が矛先を上にしていくつも置かれている。


 普通に考えて、ジャンプして紐に捕まり、向こうへ着地が正解なんだろう。


「よし私が手本を見せるから」


 先輩が飛び、紐を掴む……しかし、止まった。


「…………」

「オルタちゃん、きて!」

「なんで!?」

「オルタちゃんが飛び移ってくれたら反動で動くよ」

「ええ!?」

「お願ーい」

「ああ! もう!」


 私はジャンプして紐を掴もうとするんだが、先輩が操作する女助手の短パンを掴んでしまった。


「ぎゃー! オルタちゃんのエッチー、離してー」

「離したら死にますー」


 そもそも探検に短パンはおかしいのではと今さら思う私。


「先輩ジタバタしないで……あ!」


 私は先輩に蹴落とされ、穴に落ち、トラップの槍にぐさりと突き刺さる。


「おおおおー! 刺さった! え!? まだ死んでない? なんで? このゲームに即死はないの?」


 しかも手足を動かすことが出来る。けど、槍が脱けずにいてジタバタ状態。


「血が出てる。エグい!」


 ジタバタするたびに血が体から飛び出る。


「オルタちゃん、ごめんね。私、先行くね」

「先輩、ひどい。置いてかないでよ!」


 けどツルッと紐から手が滑り、先輩は私の上へと落ちる。


「グヘェ、刺さっちまったぜー」

「どうするんですか?」

「これは2人で死を待つかな? ……このままだったら時間がかかるので手足動かそ。そしたらすぐに死ぬよ」


 私達はすぐ死ぬためにジタバタとキャラを動かす。

 キャラは血を流し、穴に血溜まりが生まれる。


 何このアホみたいな状況は?


「あ? 私、上にいけるかも」


 どうやら先輩はジタバタすると私を踏む形となり上へと動けるではないか。もしかしたら刺さった槍が抜けるかもしれない。


「よし! いける! いけるぞ!」


 しかし、私が死ぬと足場となっていた私が消えたので先輩は下へと滑り、槍から抜けられなくなる。


「あ、死んだわこれ」

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