第5話 怒り!【瀬戸真里亞】
私、瀬戸真里亞は阪口翔吾を絶対に許さない。
絶対にだ!
なぜなら──。
「リアタイで見たかったー!」
そう赤羽メメのオルタ化という事故イベントをリアタイで視聴できなかったことが悔やんでも悔やみきれない。それが私の怒りであった。
「あーいーつー! クソがー!」
私は枕にパンチを繰り出す。何回か殴った後、持ち上げて布団にぶつける。
「うらぁ!」
赤羽メメのオルタ化は無料動画チャンネルで録画配信もされているのでいつでも視聴は可能。
しかし、いつでも見れるとはいえ、推しの動画にはなるべくリアタイで見たいというのがファン──いや信者というもの。
それをあのヤリモク見え見えのクソ野郎のせいで!
「一世一代の大イベント逃してしまったじゃないの!」
ファンたるものリアタイでコメントを残し、そしてSNSなどで呟き、トレンド入りさせるのが務めである。
赤羽メメのオルタ化は無事トレンド入りしたが、そこに私が関われなかったことが悔やまれる。
「ぐがぁー!」
私はもう一度、枕をベッドの布団に叩きつける。
「あーまーのー!」
阪口が一番憎いが、次に天野に対しても腹が立つ。
その天野とは大学に入ってからの友達。
周りは私達のグループを瀬戸グループなんて言うけど私が中心ではないのだ。
どちらかというと中心は天野心だ。
私が強く拒否したり、嘘を付くと余計な邪魔をする。
しかも本人は自分は善意だといわんばかりに!
こっちが悪いみたいに!
今回もどうせこっちが強く拒否したり、嘘を付くと邪魔をしてきたに違いない。
現にあいつらは誘いを拒否をしなかった。
しろよ。クズが。
それを後で「私、本当は嫌だったの」なんて可愛い子ぶりやがって。ふざけるな。
嫌なら嫌と言えよ。本音は嫌ではなかったんだろ。あいつらに誘われて内心は優越感に浸ってたんだろ。「私モテるわ」みたいに。
ウッゼー!
私は枕を持ち上げて、ベッドの布団に叩きつける。
「フー、フー、フー」
心を落ち着かせよう。
そうだ。もう一度、赤羽メメの動画を見よう。
私はスマホで動画を視聴し始める。
動画が始まってからの数分の挙動不審感が生々しく、見ているこっちにも不安と心配が混ざってくるものがある。
「一体誰なんだろう。やっぱ本物の姉かな?」
ネットでも本物九割といったところで私と同じように本物と感じているらしい。
その後のゲーム実況も素人そのもの。
ゲーム実況というものは視聴者に対して語りかけること、ゲーム内容と今の自分の心境を伝えることをしなくてはならない。
さらにVTuberはアニメ声で演じるのが普通。
だけどこの赤羽メメ・オルタはキャラクター性もなく、地声でただゲームプレイをしているだけ。
しかもゲームプレイが下手くそ。
だけど──それがより本物の素人感を出している。
事故を演出というものは業界では珍しくはない。それらは「やらせ」と呼ばれるもの。その「やらせ」なるものは売れない者ほどよくやる行動の一つだが、赤羽メメのような変哲のないVTuberが実行するとは考え難い。
「やらせ」はその分、演技や演出に力がかかる。
赤羽メメに演出力があるとは思えない。あればさんざん他のVTuberに実況されつくされた手垢濡れのスーパーハリオを選ぶとは思えにくい。それに偽物の姉を用意することもまた難しいはず。
だけどだ。赤羽メメは大手ペイベックスに所属しているから事務所が全面協力するなら難しくもないはず。
「う〜ん。どっちだ?」
と唸っていると猫の鳴き声が。そして赤羽メメ・オルタが何か呟いた。
少し戻って、音量を大にする。
『……あ、……め……ぁ』
ううん?
イヤホンをセットして、もう一度戻り再生。
『……あ、まめだ』
「まめだ? 青豆だ? あ、豆だ?」
う〜ん。どれだ? 青豆というか、驚きの「あ」だと思う。なら「あ、豆だ」が正解?
ネット掲示板でも少し調べてみると、私と同じように気付いて書き込んでいる人がちらほらいる。
レスでの話し合いの結果、飼い猫の豆が近づいた説が濃厚と片付けられていた。
しかし、赤羽メメが猫を飼っているとは聞いていない。だが、姉がいるとも言っていない。ならば猫を飼っていてもおかしくはない。
そしてこの赤羽メメ・オルタなる姉はレポート作成でパソコンを借りようとしたと告げていた。
ということは大学生だろうか?
レポート提出が間近の大学生の姉。そして猫の豆。
その二つの単語が頭に残る。
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