第12話彼方さらり
夏休みもそろそろ終了を迎える頃。
僕と天井姉妹の夏休みの出来事は旅行だけには留まらなかった。
週に一度は誰かが那谷家に訪れるか外で遊ぶか。
ただ誘われると思っていた花火大会には誘われなかった。
僕から誘ってみても断られてしまい、後日、理由を教えてもらったのだが、どうやらいつもの家の手伝いがあったらしい。
旅行以外で大きなイベントは他になかったが毎週何処かで遊んでいたため天井姉妹と仲が深まっていった。
最近ではみやこも落ち着いてきたのか僕に絡んでくることもなくなった。
どうやら彼氏らしき人物も出来たようだ。
僕にとっては平穏が訪れた様で安堵できる出来事だったが、それと同時に怒りにも似た複雑な感情が胸に去来したものだ。
だがそれも一時の感情だったようだったので一安心した。
「夏休みどうだった?なんかあったか?」
本日の当番も古川修とで僕らは他愛のない会話をして過ごす。
「旅行に行ったことぐらいかな」
具体的な旅行の内容は隠しながら話をすると彼も適当に相槌を打つ。
本日も図書室には殆ど生徒の姿はなかった。
と、そこに突然の来客が訪れる。
もちろん天井姉妹でもみやこでもなく…。
それどころかうちの制服以外を身に纏っている女子生徒だった。
「誰だろうね。部活動で来た他校の生徒かな?」
古川は世間話風に問いかけてきて僕も首を傾げた。
「部活動で来た他校の生徒が図書室に来るか?」
答えの見つからない話を繰り返しているとその女子生徒は本棚を見渡して一冊の本を手に取った。
彼女はしばらくその本に見入っていた。
そして彼女は受付にやって来るとその本を渡してくる。
「借りたいんですけど…」
大人しめの見た目をしているが芯の強そうな女子生徒のように僕の目には映った。
「えっと…当校の生徒以外は貸出不可なんです」
古川は丁寧に断りの返事をすると相手は鞄の中を漁っていた。
そこから新品の生徒手帳を取り出すとこちらに差し出してくる。
「二学期から転校して来るんですけど…それでも認めてもらえませんか?」
生徒手帳を確認するとどうやら彼女は二年生の同級生になるらしかった。
彼方さらり。
目の前の女子生徒の名前を確認すると僕は図書カードを作る。
そのまま貸出許可をすると本を彼女に渡す。
「どうぞ」
さらりは僕の顔をじっくりと眺めると軽く微笑んだ。
意味深な笑みに笑みで返すと彼女は本を受け取って図書室を後にする。
「なんか変わった娘だったな」
古川の言葉に頷いて応えると彼は続けて口を開く。
「だけど…めっちゃ可愛かったな!」
それにも頷いて応えると僕らは当番の終わる13時まで仕事をこなす。
「帰りに牛丼でも食べて帰ろうぜ」
古川の提案により僕らの帰りの予定は決まるのであった。
そして新たな登場人物。
彼方さらりを加えた物語は始まろうとしていた。
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