3.見えない方が良いものばかりの予備情報。

 高原たかはら雛乃ひなの黒沢くろさわ宇宙そらは概ね対照的な二人である。


 まず身長が違う。

 

 高原さんは本人に聞いたことが無いから詳しい数字は分からないけど、私よりも一段小さいことを考えると恐らく百五十センチあるかどうか(私がだいたい百六十くらい)だろうと思われる。


 逆に黒沢さんは私が見上げるくらいの身長なので、恐らくは百七十センチくらいはあるんじゃないだろうか。


 身体の凹凸に関しても高原さんは、表現を選ばないのであれば完全に幼児体型という感じな一方で、黒沢さんは、出るところはしっかり出ていて、引っ込むところはしっかり引っ込んでいる(こちらは制服の上からの推測だけど)という実に魅力的なプロポーションをしている。


 高原さんは基本的に「運動の時に邪魔だから」という理由で髪が肩より下に伸びるところを見たことがない(中学校からの同級生である小松川さん談)というし、逆に黒沢さんは、一体いつから伸ばしているのだろうと思ってしまうほどの長さをしていて、顔も前髪で半分くらい隠れていて見えない。


 四人でいる時の口数は高原さんが一番多くて、黒沢さんが一番少ない。完全に対照的な二人だ。


 正直、私からしたら、交わることがなさそうに見えるのだが、そんな二人には一つだけ共通点があった。


「それ、いつものやつ?」


「そ、いつもの」


「そういう、こと」


 高原さんは私に指摘されると、手に持っていた漫画をどうだと言わんばかりに見せつけてくる。


 そう。


 この二人の数少ない共通点。


 それが「漫画」なのだ。


 と、言っても二人が読んでいる漫画の数には大分開きがある。


 黒沢さんは、ありていに言ってしまえば「オタク」に近く、家にはそれこそジャンルを問わず、様々な漫画が本棚にびっしりと入っている……らしい。これも本人からじゃなくって小松川さんから聞いた話っていうのが何とも情けない。


 対して、高原は割とミーハーで、流行りの作品だけをつまみ食いするタイプ。それと、普段の言動からは余り想像もつかないんだけど、割と少女趣味で、恋愛系の少女漫画をかなり好む……らしい。こちらは本人から聞いた話。こういう時。なんでも隠さずにしゃべってくれる人のなんとありがたいことか。


 そんなわけで、二人は趣味の一致から意気投合をしてはいるものの、その関係性は微妙にすれ違いがある。実際の相関はこんな感じだ。


 高原

 ↓

 どんな漫画でも知ってて凄い。面白い人。

 ↓

 黒沢

 

 黒沢

 ↓

 もうちょっと色んな漫画を勧めたいけど……

 ↓

 高原


 ね?ちょっとずれてるでしょ?二人の間には割と温度差があるんだよね。しかも黒沢さんはこの「勧めたいんだけど……」ってう状態がずっと続いてる感じ。


 多分、受け入れられるか分からないんだと思うけど、高原さんは、もっと知りたいんじゃないかと思うよ。まあ、それを直接伝えたりはしないんだけど。


 だってなんでそんなこと分かるのってなるじゃない。まさか「実は人間関係に関する矢印が見えるんだよね」なんてことを言い出した日には、森の奥に迷い込んで変な模様のキノコを食べたと勘違いされて、病院に連れていかれるのが関の山だろうし。


 そんな二人が私に挨拶し、一緒に行動するようになったのはひとえに小松川さんのおかげ、だったりするんだよね。


 黒沢さんは高原さんと仲が良い。高原さんは小松川さんと仲が良い。そして、小松川さんは私と仲が良い。だから四人が一緒に行動する。そんな感じ。


 ま、別に高原さんも黒沢さんも嫌いじゃないから良いんだけど、個人的には黒沢さんともうちょっと話がしたいなぁと思ってたりもする。けど、少年漫画って守備範囲内かなぁ……


「ヒナ、宿題やってきた?」


「え?宿題?」


 小松川さんが宿題について話を振り、高原さんが「なんじゃそりゃ」という反応をする。これももう大分慣れてきた。


 一応、北川に受かっているわけだから、それなりに勉強が出来ないといけないハズなんだけど、高原さんは例外。どうやらスポーツ推薦なんだそうだ。


 まあ、そうじゃなかったら一年からレギュラーになったりはしないか。なんだっけ……確か、バスケットボール部。


 そんな高齢となった二人のやり取りを眺めていると、当然ながら、その二人の間に存在する「人物相関の矢印」が見えてくる。お互いからの矢印はこんな感じだ。


 小松川

 ↓

 バスケしてる姿がカッコいい。しゅき……

 ↓

 高原


 高原

 ↓

 仲の良い友人

 ↓

 小松川

 

 お願いだから人に見えてはいけない関係性はそっと心の奥底にしまっておいてくれるかな?

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