第12話
俺が目覚めたのは、一般の病院のベッドの上で、日付は二回ほど変わっていた。ベッドの横には母がいて、目覚めた俺を抱きしめて安堵のため息を漏らした。世間一般では、あの事件と、俺の意識不明の原因がどういう風に説明されているのかは分からないが、自分の息子がいきなり意識不明の重態になったら、心配するのは当然のことだろう。悪いことをしたな、とは思うが、俺はまず自分に起きたことと今の状態を把握すること、そして二日前の事件と今を一本に結ぶことが重要だった。
おふくろの話を聞くと、俺はどうやら突然起きた竜巻に飛ばされて、道端に倒れていたらしい。どうせ、『タナトス』の記憶&情報操作だ。
確か、「ゲート」が開いて、イレギュラーの戦力が圧倒的で、高科法術士が次々と死んでいって……。
そうだ、紗友里。
紗友里はどうしたのだろう。一緒に吹き飛ばされて、腕が千切れて、血が大量に出ていた。
死―。
もっともいやな可能性が、俺の頭を掠める。
あのまま失血死なんてことも在り得る。俺は焦った。何にかはわからないが、きっと全部にだ。
待て待て。
それより何より、あの圧倒的な状況で、俺はどうやって助かったのだ?それに、あのまま侵略が続いたなら、この街はとっくに火の海で、『タナトス』も体裁を気にしての情報操作など、している場合ではない。
でも俺は今こうして無事病院にいて、情報操作もされていて、街もまだあるのだろう。ということは、侵略は止まった、と考えられる。一時的にであっても。
コンコン。
突然、ドアがノックされた。俺が答えると、ドアが開く。
「具合はどうですか?」
言いつつ入ってきた人物に、俺は目を丸くした。
式守紗友里だ。
生きていた。
「紗友里、無事だったんだ」
俺が言うと、紗友里は微笑んだ。
「ええ、おかげさまで。狭山君は、大丈夫ですか?極度の疲労以外に、外傷は擦り傷しかなかったと聞いて言いますが」
「ああ。俺は多分、なんでもないと思う。でも、紗友里は確か、腕が……」
そこまで言って、彼女を見てみると、なんてことはない。両腕とも、きちんと付いている。
「あの、その腕、機械とかでは、ないよな?」
「えっ? 腕ですか? わたしの?」
「ああ」
「ええもちろん。というか、どうしてわたしは腕を機械化しなくてはいけないのでしょうか」
不思議そうに首をかしげる紗友里。はて、俺があの時見た光景は、なんなのだろう。恐怖とパニックで混乱して、幻覚でもみたのか。
「いや、なんでもない。それより、俺はよく覚えていないんだが、ゲートはどうなったんだ?イレギュラーは?」
そこまでいうと、紗友里は少しくらい顔をした。
「その話は、また後日。ゲートは閉じられ、イレギュラーの侵略もしばらくなくなった、とだけ言っておきます。詳しい話は、ここでは出来ませんので」
とりあえず、安心しろ、ってことか。だが、この含みだらけの言いようはなんだ?
「それじゃ、また。明日には退院できるみたいですよ。退院したら、一度本部に来てください。今後のことも話さなくてはいけないので」
彼女はそう伝えると、病室をあとにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます