第2話

モヤモヤとした暗闇からの緩慢な覚醒。意識が戻るっていうのは、寝ておきる時にも起こっているのだなあと、つくづく思う。

 結果から言うと、全部夢だった。気がつくと俺は大通公園のベンチに座り、間抜けにも空を見上げたまま眠りこくっていたのだ。雪がひどくなくてよかった。昼寝で顔面の上に雪が積もるなど、一生ものの不覚である。

 いやいや、あんな非現実的な割に妙にリアルな夢を真っ昼間から見ている時点で、かなりの不覚である。むしろ、病んでいるとさえいえる。そんな自分に大分ひいた。

 念のためあたりを見渡してみたが、特に事件が起きた気配はないし、可愛い魔法少女もいないし、謎の子鹿モドキも後から召喚された銀の毛むくじゃらもしない。

 テレビ塔は破壊されていないし、人間を単純表記した落書き巨人もいない。道行く微量の人々も、何かを騒ぐ様子もなくいつもどおりの退屈な冬のある日を過ごしている。

 そう、なにも問題などない。

 結局はやはり俺のわけのわからない妄想であったわけだ。

 俺はそんな自らに些細な絶望感を覚えつつ、もうやることもないので(最初からやることなんてないのだが)帰ることにした。

まぁな。魔法とか、珍獣とか全部無視してみても、まずあんなかわいらしい女の子が現実問題いるはずがない。二千歩譲っていたとしても、俺の近辺をうろついているはずがない。更にはこの女運のない上に、特にモテる要素もない俺が何らかの形であろうとも接触なんて、あったらすでにキリスト並みの奇跡だ。

地元の駅についた頃には、もう太陽の瞼が落ちそうになっていた。というか、夕方から晴れやがって。道の端々を見てみると、案の定こんもりと雪が積もっている。どうかな、やはりもう一回雪はねか?

ほんのちょっとだけ、帰るのが憂鬱だ。

ため息をつくと、それはほんの少しだけ白く残って消えた。何だったのだろう。この果てしなく無駄な一日は。世の中には無駄な時間も必要というが、今日の無駄は真の意味での無駄であると断言しても申し分ない。本当に本ッッ当に無駄だった。

することがないので定期券を使って街に出て、ショッピングさえせずにベンチに座り、寒い中ウトウトして変な夢をみてブルーになった。回想してみると、よりいっそう悲しい。しかも、今日はクリスマスだ。

やってられない。

俺は積もってそれほど時間のたっていないふかふかの雪を敵意むき出しの視線でにらむと、バスなど使うはずもなく自分の足を駆使して帰途に着く。途中三台のバスに追い抜かれたが、そんなことは気にしない。

 ただ歩くのもなんなので、何かのワンシーンのつもりで走ってみる。夕暮れの銀世界を必死に走る少年。その先には、何が待っているのか。

 いや、思いっきり自宅と家族だろうけどね。

 俺じゃなければ、その疾走姿ももっと絵になっているはずさ。家につく頃には、俺の肺活量はほぼ限界値を超えつつあり、真冬なのに汗までかいていた。これも無意味な運動である。

 風除湿には、すでに灯りが燈っていた。多分お袋が帰っているのだろう。パートで目一杯働いてきても、家に帰れば食事の支度が待っている。主婦って大変だと思う。思うだけだけど。

 雪はねをするかしまいか微妙なラインで雪の積もった庭を通過し、俺は何の変哲もない自宅の玄関のドアを開けた。

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