試練 絶対に許さない…許さない!

†††††††


 次の試練は、見る限りでは人を助けるものだった。なんだ、らしい試練じゃないか。そう思っていたのだ。翠夢も瑠璃も。


 ここでは、カッターナイフを失くした女の子がいた。2人でカッターを探し、見つけ出す。そんなに難しい事ではなかった。簡単に見つけられるもの。数分後に見つかった。


†††††††


 瑠璃がカッターを見つけた。その人に返してあげたのだが、その後に問題が発生した。


「ありがとう…とでも言うと思ったの?」

 なんと、その女の子が返したカッターナイフで瑠璃を切りつけようとしていた。それに素早く翠夢が気が付く。そしてカッターを飛ばした。


「危ないな。何をしているんだ」

「あの子が取ったの!カッターナイフをあの子が取ったの!だから痛めつけようとしたの!なんであなたも私をいじめるの!う…うわああああん!」

「(…なんだ?この子は…)」


†††††††††


 女の子が大泣きし始めたころ、周辺はこの状態を引き起こした犯人の、翠夢と瑠璃に目を向けた。周辺に人が居なかったはずなのに、急激に人が増えている。

 その中には、不良も、かつて瑠璃が男性を恐れるようになった原因になった人もいた。その人たちが、大声で罵り始める。


「なんだ…やっぱりお前たちが取ったんじゃん」

「本当にお前たちは最低だな!被害者気取りの加害者が!」

 それを聞いて、瑠璃は震えが止まらなくなる。それを感じて、翠夢は小声で話した。

「こいつらの話は聞くな。耳を塞いで。ずっと俺の近くにいてくれ」

「あ…はい。信じます」


†††††††††


 失くしたものを探さなかった、部外者達の一言が、2人を追い詰めていく。聞くに堪えない暴言。それらは、かつての翠夢が浴びせられた言葉だった。それらは、当然ながら瑠璃にすら浴びせられる。それに耐えられないと思い、耳を塞がせた。


 部外者をどけて、2人は建物から出ることにする。

「どけ。何もしなかった人達が何を言うんだ。人の話も聞かない、助けようともしない、挙句の果てに上げ足取りか。もううんざりだ」


 部外者達は、何を恐れたのか、道を開けていく。そして、何事もなかったかのように、散り散りになっていった。想像よりも楽に建物を出ることが出来た。

「(こんな目に合わせたあいつらを、絶対に許さない…許さない!)」


†††††††††


 瑠璃は、塞いでいた耳を開けた。そして、話し始めた。

「あれが、試練なの?」

「わからないが、そうらしい。こういうのを受けて乗り越えないといけない。乗り越えると言うのもわからないが」

「耳を塞いでも聞こえてくるくらい、酷い罵声でした…似たようなことは言われたことがありますが、あんなに酷い事にはならなかったです」


 翠夢には、助けたはずが、それが仇になりこのような状況になることがあった。それでも、助けようとした。たとえ嫌われようが、そうしないと気が済まないから。


「(何助けようとしてるんだ!お前に助けられたくない!)」

 そういわれても我慢していたが、それを好きな人に対して発言された今回は表情が暗かった。助けたのにあんなことになった、瑠璃の慰めをしたかった。だから…


†††††††††☆彡


「あっ…んっ…」

 翠夢は、珍しく無理やり気味に瑠璃に唇を押し付けた。

 ちゅっ。ちゅっ…この音と、好きな人の体温が、2人の恋人同士の正気を保つのに必要だった。試練の最初の頃に比べると、正気を保つのが難しくなっている気がする。


「ありがとう。少し休んだら、次に進むぞ。大丈夫か」

「大丈夫です。次もつらいと思いますが、乗り越えないと。私は見ていることしかできないのがつらいです」

「それでも、瑠璃が近くにいてくれるだけでいい、それだけで折れなくなるはずだから、近くで見ていてほしい」

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