第12話 出発
「まずは、捜査局が研究員に取り調べをして得た情報から共有しておこう。事件当日の昼過ぎ、研究員達は殆どが二階中央の大広間で昼休憩をとっていたそうだ。……おっと忘れていた。トレードカンパニー内の地図を貰ってきたんでな。これを見ながら説明しよう」
小さい黒色のクラッチバッグから地図を取り出して僕たちが囲んでいる丸いテーブルの上に広げた。
「二階のこの真ん中にある空間がその大広間だ。ここで休憩をとっていた研究員達がある異変に気付いたそうだ」
コの字型の施設の真ん中の一辺を指さして説明する。
「異変ってなんだ?」
興味津々な様子で砂逅君が尋ねると、少しだけ沈黙を作ってから説明を始めた。
「ああ。施設全体の窓ガラスがびりびりと震えていたらしい。そしてその異変が起きる直前、パン!という破裂音を聞いたらしいんだ」
「えー……俺様ちょっと怖くなってきたぞ……」
頭から生えている猫の耳のようなものを後頭部側に反らせて眉をひそめた。
「問題はその後だ。他の研究員達も異変に気付いたその直後、地下研究室が突如爆発し、地上部七階まである施設の二階までが崩壊した」
「トレードカンパニーは製薬会社ですよね?だとすれば何らかの危険性がある薬品の取り扱いを誤って事故が起きた、とかでしょうか?流石に爆発の規模が大きすぎる気がしますが……」
業さんはすかさず自分なりの推測を立て、罰さんの説明を掘り下げた。
「爆発が起きた根本的な理由としてはありえるかもな」
事件の詳細が明らかになるにつれて、僕が最初に思っていたよりも被害が大きい事件なのだと気付き始めた。それと同時に、見ないふりをしていた恐怖感が僕の心の中でひっそりと顔を覗かせる。
「この爆発で多くの研究員達が巻き込まれ犠牲になったが、その時に四階にいた研究員の証言が恐らく今回の事件の要になる。爆発が起きて少ししてから悲鳴が聞こえたそうなんだ。そして、煙でよく見えなかったそうだが大きな人影のようなものが見えたと。位置的には爆発の被害を免れた三階の研究室の方だったらしい」
「その悲鳴ってまさか、さっき言ってた化け物に襲われたとか……?」
僕は思わず恐ろしい想像を口にした。
「ああ。捜査局が少し調べた程度だが、地下から二階までの死体と三階から上の階の死体はどう見ても死因が違うそうだ」
「つまり爆発の被害が及ばなかった階にいた研究員達は皆、その化け物に殺されたということですよね?まだその辺にうろついてるかもしれないのに危険ですよ……ああもう本当に嫌だな……」
罰さんの言葉が一旦途切れたタイミングで、工君がやけに早口で文句をたれると落胆の表情を浮かべた。
僕や、他のみんなだってきっと恐怖を感じているはずだ。それでも湧き上がる恐怖を押し殺して任務に挑もうとしているのに、敢えてそれを言葉にされるのは神経を逆撫でされているようで少々不愉快だった。
「まあ、ここまでが大体の事件の報告だな。大丈夫か、祐希」
「えっ?」
「顔が強ばっているが」
知らないうちに眉間に皺を寄せて苦い表情になっていたことを罰さんに言われて気が付いた。
「す、すみません。ちょっと緊張してるだけです」
変に皆に心配をかけまいとわざとらしく笑ってみせた。
「そうか、ならいいが。では捜査の段取りを説明しよう」
罰さんはもう一度地図を指さして話を切り出した。
「捜査範囲が広いので二手に別れてもらう。工と砂逅は爆発の原因を調べるために地下研究室へ向かってくれ。クラス5から三人の護衛をつける。業、祐希、碌にも三人の護衛をつけてトレードカンパニーの屋上から七階へ降りて捜査をしてもらう。捜査が終わり次第屋上に集合して迎えを待て。分かったか?」
鋭い眼光で皆の意志を確認する姿には組織のリーダーの風格が表れていた。
「では……ん?少し待ってくれ。捜査局からだ」
話の流れを折るようにして罰さんのスマートフォンから電話の呼出音が鳴り響く。
「もしもし……何?……分かった」
罰さんの表情が少しだけ曇るのが分かった。
「追加情報だ。ショック状態で話せなかった一人の研究員が新しい情報をもらしたらしい。トレードカンパニー社長の、小学四年生の娘が行方不明になっていると。名前は溝端花。この娘の捜索も視野に入れて捜査を頼む」
一斉に、はい、と返事をして皆が罰さんの方を向いた。
「分かっているとは思うが、捜査よりも自分たちの命を優先してくれ。では、報告を待っている」
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