第11話 作戦会議

 罰の号令で、第一会議室に集められた団員たちは各々の寮へと戻っていく。

「初めての任務だよね?なにかわからないことがあればなんでも聞いてね。頼りないと思うけど……」

 急な初任務で内心かなり緊張していたので、碌君の屈託のない優しさと気遣いがこれでもかというほど心に染みた。

「ありがとう。そう言ってくれる人がいて本当に心強いよ」

「えへへ。じゃあ、第二会議室まで一緒に行こっか」

 第二会議室にはまだ行ったことがなかったので、碌君に案内されながら廊下を進んだ。第一会議室と同じく一階にあるようだ。

 さっき碌君が僕を気遣って優しい言葉をかけてくれたので、少しは緊張がほぐれたと思っていたがそれは束の間だった。もう少し優しめの任務なら少しはましだったのだろうが、化け物が出たなどと報告を受けて正気でいられるわけがない。

 あれこれ考えているうちに第二会議室の扉の前に到着した。もう引き返せないという事実が扉の向こうから滲み出てきているように感じられた。

 碌君が扉を開けると、既に他の団員たちは集合していた。

「よし、皆集まったな。祐希は初めて会う団員もいるだろう。軽くだが自己紹介でも──」

「はいはーい!俺様は砂逅!碌と同じ生体管理保護班所属だぞ。俺様すっげぇ強いから何かあったら守ってやるぞ!」

 罰さんの提案を押し返す勢いでそう言い放ったのは、綺麗なオレンジのグラデーションの髪をした男の子だった。頭に猫の耳のようなものが生えているが、一体何なんだろうか。

「は、初めまして。日ノ山祐希です。よろしくお願いします」

 僕は砂逅君の勢いに若干圧倒されつつも、自己紹介をして軽く会釈をした。

「こっちは佐藤工……っておい、そんな顔してどうしたんだ?」

「憂鬱すぎる……普通に考えてこんな危なそうな事件、僕が担当するような任務じゃないよね。はあ……何でいつもいつもこういう小さな不幸に見舞われるのかね……」

 罰さんに紹介された、黒縁眼鏡とマスクを着けたマッシュカットのこの人は工君というらしいが、罰さんの呼びかけにも反応せずにぼそぼそ独り言を呟いている。心ここにあらずといった感じだった。

「トレードカンパニーは製薬会社だが、医療器具や手術器具の生産も行っている。お前の好きそうな最新機器や精密機器も山ほどあるらしいぞ。喜ぶかと思ったんだが、嫌なら抜けてもいいぞ」

 罰さんが面白げに片眉を上げて工君を軽く煽ってみせた。

「い、行きますよ。言っておきますけど、僕は技術者であって戦闘員じゃないですからね。護衛、ちゃんと付けてくださいよ……」

 僕が自己紹介するタイミングを掴めずにおどおどしていると、その視線に気付いたのか眼鏡をくいっと上げてこちらを物凄く嫌そうに横目で睨みながら口を開いた。

「どうも、佐藤です。隠密情報収集班所属です。何か質問はありますか」

「い、いえ……日ノ山祐希です、よろしくお願いします」

 色々気になることはあったが、尋ねると余計に機嫌を損ねてしまいそうだったので何も聞かないことにした。

「工は善盈団本部のセキュリティシステムなども管理してくれているんだ。機械のことに関しては、工の右に出るやつはいないからな」

 僕は機械にめっぽう弱いので素直に感心した。スマホの操作でも分からないことがあるのに、パソコンや精密機器となると正直もう何も分からない。

「じゃあ、次は僕かな?」

 そう言って誰からも好かれそうな笑みを浮かべてこちらを見ているのは業さんだ。

「僕のことはもう色々と知っているだろうけど、一応自己紹介しておくね。僕は織我野おがの業。殺人事件調査班の班長をしているよ。まあ祐希君も僕と同じ班だから知っているよね。あとは何かあるかなぁ……」

 顎に手を当てて少し考える素振りをしたあと、何かを思い出したようにはっと顔を上げて真剣な眼差しで再び僕を見やった。

「好きな食べ物はカレーだよ。美味しいお店を知っているんだ。今度一緒に行こうか」

 業さんはたまに、天然なのかと思わせるような言動をとることがある。普段はとても頼りがいがあって何でもこなしてしまう先輩なのだが、たまに見せる表情で、「ああ、この人も同じ人間なんだな」と変なことを思ってしまう。

「祐希、間違っても業のおすすめは食べるなよ。全部激辛だからな」

「わ、分かりました」

 罰さんは顔をしかめながら僕に念を押した。

「おっと話が逸れたね。僕とは班も一緒なんだし、お互い頑張ろうね」

「はい、ありがとうございます」

 これで残ったのは、さっき知り合ったばかりの碌君だ。

「じゃ、じゃあ最後は僕だね。僕は阿賀宮碌。生体管理保護班の班長で、阿賀宮叱の兄です。好きな食べ物は……ハンバーガーです」

 好きな食べ物を発表していく流れだと思ったのか、業さんに続けて碌君も好物を発表した。きっと人一倍気をつかえる人で、とても優しい人なんだろう。内面が外見に滲み出ている。

「よし、自己紹介は終わりだな。では早速任務の詳細を伝える」

 罰さんの一言で、今までのほっこりとした雰囲気から一瞬で緊張感のある空気へと入れ替わる。僕も背筋を伸ばしてもう一度気合いを入れ直した。

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