第10話 初任務
「大量殺人……?」
僕は思わずそう復唱して隣の碌君と顔を見合わせた。会議室全体がただならぬ雰囲気に包まれ、団員のざわめきが増幅していく。
「
「人型の化け物……」
足寄山地区は四方が山に囲まれているので凶暴な野生生物でも出たのではないだろうかと一瞬安直な想像が浮かんだが、人型、つまり霊長類であろう野生動物で、人間を一気に何十人も無差別に殺害するような化け物がいるとは思えない。少なくともそんな恐ろしい生き物を僕は知らない。──いるとすれば、人間だけだ。
「今回の任務は対象を捕獲し、無力化すること。生死は問わない」
多くの人間が犠牲になった事件だというのに、罰さんは顔色一つ変えず極めて冷静に事件の概要を述べた。その表情は団のトップを務める者として相応しいものだった。
「さて、任務に就いてもらう団員だが……己の命を優先して辞退するのも構わない。こちらとしても無闇に団員を死なせたくはないからな」
──辞退。その言葉で今までなんとなく感じていた今回の事件の恐ろしさと危機感が現実のものになった。もし自分が指名されたら、と考えるだけで背筋がぞっとした。
「では担当する団員を指名する。生体管理保護班から
──自分の名前が呼ばれた。まさかとは思ったが、確かに今、罰さんが僕の目を見ながら僕の名前を呼んだ。もちろんいつかは任務に就いて役目を全うするのだと考えてはいたが、初任務がこんな危険そうな任務だとは思ってもみなかった。いっそプライドを捨てて辞退した方がいいのではないだろうかと、なんとも情けない考えが浮かんだ。
「異議があるものはいるか?」
どう考えてもここで辞退した方が己の為だというのに、期待の眼差しで僕達を見据える罰さんの表情を見ると堂々と手を挙げて辞退しますなんて、やはり言えるはずもなかった。そもそも、自分なんかが何不自由なく暮らせているのは罰さんや半田さん達が僕にチャンスを与えてくれたからだ。そんな人達の為に少しでも役に立ちたいと思ったから善盈団に入団したというのに、さっき自分は何故あんな恥ずかしい事を一瞬でも考えてしまったのか。今一度自分の立場を客観的に理解するべきだと自戒した。
「決まりだな。今呼ばれた団員は第二会議室に集合してくれ。改めて事件の詳細説明を行い、捜査について全員で話し合う。残った団員も気を抜くなよ。いつ緊急招集がかかってもいいように各々部屋に戻って準備をしておけ。では解散だ」
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