【初任務】

第9話 事件発生

『緊急団内放送です。クラス5(ファイブ)からクラス2(ツー)までの団員は、至急第一会議室に集合して下さい。繰り返します。クラス5から────』

 午前五時半頃、善盈団本部に緊急招集の放送が鳴り響いた。事件が起きた時はこうして放送で呼び出されるシステムなのだ。今回のようにクラスで呼ばれることもあれば、特性に合わせて作られる班で呼ばれることもある。

 本部にはクラスごとに寮が設けられており、クラス5からクラス1と数字が小さくなるにつれて地下深くに部屋が作られている。クラス5は突撃部隊などの大人数クラスで、クラス4は狙撃部隊や奇襲部隊、クラス3から1は何らかのアビリティを持つ者が配属される。因みに、アビリティを持つ者のことをグランテッドと呼んでいるらしい。

 桜田さん一家が殺害されたあの日、つまり空に再開した日から僕はずっと体調が優れないでいた。具体的には頭痛と目眩なのだが、市販の薬を飲んでも治らない。それでも招集がかかればどんな理由があろうと急いで向かわなければならない。

 僕はクラス3なので、その辺に適当に畳んで置いてあったシャツに着替えて一階の第一会議室へと向かった。エレベーターの上ボタンを押すとすぐにエレベーターは到着した。中には誰も乗っていない。

 起きたばかりで視界が霞んでエレベーターパネルの数字が見づらい。僕は少しだけ目を細めてパネルに近づくと目的の1のボタンを押した。あまりにも髪がボサボサだったので、エレベーター内の鏡を使って手櫛でどうにか清潔感を作り上げたが、手強い寝癖には太刀打ちできなかった。

 若干の浮遊感と共にあっという間に一階に到着した。エレベーターを降りてまっすぐ廊下を進んで突き当たりを右に曲がると第一会議室があるので、僕は早歩きで廊下を歩いた。途中、他の団員には一人も会わなかった。もう皆集まっているのだろうか。

 会議室の扉を開けると、広い空間にびっしりと並べられた長机に自分以外の団員達が既に着席していた。殆どが見知らぬ顔なので思わず体が強ばる。

 実を言うと招集がかかったのは入団してから今回を入れてまだ二回目で、そのうちの一回は同じクラス3の人達との顔合わせだった。しかもその時、クラス3の団員は半数以上が任務に当たっていたので人数はかなり少なかった。三上さんという司法解剖班班長の闇医者みたいな人と、未成年犯罪指導班班長で僕と同い年の阿賀宮あがみや君と副班長の宗山むねやま君、そして業さんだけだった。その日は歓迎会のような雰囲気だったので比較的リラックスして過ごせたが、今回のような任務での招集は初めてなので正直めちゃくちゃ緊張している。入団してから約一年が経っているが、まともな任務を与えられたことはまだ無く、今回が初めての任務になるかもしれないと考えると余計に緊張を加速させた。

 団長である罰さんはまだ到着していないようなので、空いている席を探して少し待つことにした。

「あの……初めまして、だよね?僕は阿賀宮碌あがみやろく。よろしくね」

「あ、初めまして。日ノ山祐希です」

 隣に座っていた団員から声をかけられたので顔を確認する前に反射的に自己紹介をした。

 ──阿賀宮って歓迎会の時にいたあの阿賀宮君?顔を確認すると、前会った時とはえらく雰囲気が違った。オーバーサイズのパーカーのフードをもっふりと被った大人しそうな青年だ。僕の記憶違いでなければなんというかもっとこう、心がないような目をしていたというか、平気で人を殴りそうな雰囲気というか、サイコパスっぽいというか、とにかく今目の前にいる気の弱そうで綿菓子みたいなこの青年ではない。

「弟のしつから話は聞いてたんだ。噂通り優しそうな人でよかったあ」

「弟……?もしかして阿賀宮君のお兄さんですか?」

「そう。双子だから年齢は同じだよ。だから祐希君と僕も同い年。敬語じゃなくて普通に友達といるときみたいに話してほしいな」

 目尻を下げてふわあっと笑うその顔を見て、少しだけ緊張がほぐれる感じがした。そして同時に、双子でここまで雰囲気が違うものか、と思った。

「うん、分かった。ありがとう。実は緊急招集で呼ばれたの初めてだったから緊張してたんだ」

「それは確かに緊張するよ。でもこんな早朝に招集かかることって珍しいんだよ。何があったのかなあ」

 なんともない話を二人でしていると、ガチャリ、と会議室の扉が開いた。コツ、コツと落ち着いたリズムで革靴の音を立てて会議室に入ってきたのは上下真っ黒のスーツに身を包んだ罰さんだった。いつ見てもこの世のものではないような明らかに異様なオーラを発している。そのまま会議室のホワイトボードの前に立つと、赤い眼光を僕達に向けた。

「おはよう、朝早くからすまないね。何故今日皆に集まってもらったのか、その理由から説明しよう」

 特に変わったことは言っていない筈なのに言葉に重厚感を感じた。身振り手振りのせいなのか、よく通る低い声のせいなのか分からないが、一言でもなにか発すると瞬く間に空間が罰さんのものになる。なんというか、人の注目を自分に集めるのが上手な人だ。

「今日集まってもらった理由、それは他でもない……大量殺人が起きたんだ」

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