第5話 邂逅(3)
「お、おい、祐希君!大丈夫かい?!何があったの?」
桜田さん宅から出てきた土間が、少し遠くで倒れている祐希を見つけて、猛スピードで駆け寄ってきた。続いて半田が早歩きでやって来て、どうした、と土間に問うた。
「分かりません、家から出てきたら倒れていて、意識が無くてそれで、ええっと……」
「もういい黙れ、どけ」
若干パニックになっている土間を強引に押しのけ、祐希に声をかける。
「祐希君、聞こえるか。半田だ。何があった。起きろ」
ぶっきらぼうにそう言うと、祐希の頬を強めに叩いた。
「駄目だな、死んでる」
「え、ええっ?!」
「嘘に決まってるだろ、どう見ても気絶してるだけだ。阿呆」
土間は、全く笑えない冗談を真顔で放つ半田に軽蔑の眼差しを向けた。
「本当にやめてくれます?心臓に悪いんですけど……」
「笑うところだろ」
そう言いながら、祐希の頬の乾きかけた涙痕を親指の腹でそっと拭って、パトカーの後部座席に寝かせた。
「お前が運転して善盈団本部まで送ってやれ。俺はまだ調べることがあるからな」
「え、僕がですか?」
「そうだ。何か文句あるか」
有無を言わせぬ鋭い眼光で睨まれた土間は、はい、と潔く返事をして運転席に乗り込もうとした。が、そこには先客がいた。
「やあ、すまないね。私が連れて帰るよ。部下のことで、無関係の君達に迷惑はかけられないからね」
半田は、久しぶりに聞く馴染み深い声にゆっくりと振り向き、いつにもまして怪訝な顔つきで運転席の扉の前に立つ男を睨んだ。
「罰……何でお前がここにいるんだ。この事件は防邏軍が担当することになってる。お呼びじゃねえよ」
罰。そう呼ばれた男は足音一つ立てずに二人の前に現れ、腕にはさっきまで後部座席に寝かされていたはずの祐希を抱えていた。血の通っていないような白い肌、向かって右の目に少しかかるようにして綺麗に分けられた、太陽の光を反射して輝く白髪、その髪から覗く深い赤色の瞳。年齢は分からないが、恐らく半田と同じくらいか少し上だろうか。すらりと伸びる手足を、上下真っ黒のスーツで着飾ったその姿はまるで——。
「すまない。別にこの事件を捜査しに来たわけじゃないんだ」
罰は、彫りの深い顔に優しい笑みをたたえながら和やかに答えた。
「何でここにいるのか聞いてんだろうが」
まるで正反対な二人の会話を聞いていた土間が堪らず割って入った。
「あ、あの。お二人は、お知り合いですか?」
「ああ、古い友人さ」
「違うに決まってるだろ」
二人同時に全く違うことを言うのを見て、土間は更に混乱した。
「違うに決まってるだろ。阿呆か」
半田は、念を押すように土間を指さして言い放った。
「私はただ、この子を迎えに来ただけだよ」
先程の笑みを崩さずに、穏やかな声色で続けた。
「私はこの子の保護者だからね。何かあったら分かるんだよ。第六感というやつかな」
「どうせ近くで嗅ぎ回ってたんだろうが」
半田は小馬鹿にするように鼻で笑い、胸ポケットから煙草を取り出す。
「また煙草かい。体に悪いよ」
小さい子供をあやすような口調に、半田は「黙れ」と小さくぼやいた。
「それじゃあ。迷惑をかけたね。早くこの子を連れて帰るとするよ」
罰は祐希を抱えたまま半田と土間に一礼し、二人の横を通り過ぎて善盈団本部へと帰っていった。
「……やっぱり、あいつか」
「え?何ですか?」
「何でもねえよ」
半田は面倒くさそうに土間をあしらい、「帰るぞ」と言ってパトカーの助手席に乗り込んだ。
「え、まだ調べることがあるんじゃ……」
「もういい、帰るぞ。車出せ」
眉間に皺を寄せ、運転を急かすようにエアバッグのあたりを指で小突いた。
「は、はい!」
土間は助手席の半田に向かって、ぴしっ!と敬礼してから車に乗り込み、防邏軍本部へと向かった。
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