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二年。
二年前なんて微妙な検索させるな。
何月から何月だ。
時系列は最新順で問題ないか。
いやだめだ。
あれは何月だった。
思い出してから開け。
検索キーも暇じゃないんだ。
「なんだその口の利き方は」
自動返答システム型ロボットの普及に伴い、機械的な敬語だけでなくユーモアのある方言や軽口、秘密めいた言葉のプログラミングが追加された。
「すみません、よく聞こえません」
「聞こえてなければ、その反応はないのだよ」
両手を掲げて壁に八つ当たりの罵声を浴びせる。
我関せずと沈黙を保つ白い平面にも苛立ちが募る。
「なぜこんな簡単な記憶の呼び出しができないんだ!」
「お手伝いできずに申し訳ありません。代わりに」
「代わりなどいらん!」
怒声につられて入ってきた八原が口をあんぐりと開く。
「ちょいちょい、何機械と喧嘩してんねん」
「間に入るなっ。音声入力を妨げるだろうが」
この四月から新たに准教授となった関西上がりめが。
ふざけたピンクの髪に、三日月型のカフスが鼻につく。
いつから身だしなみは無秩序になった。
途方もなく髭を伸ばし、部屋がゴミ山と化している己は棚に持ち上げる。
「やべえな、じいさん。還暦前にこれは終わってへん?」
「口の利き方には三倍気をつけろっ」
「あんたが初日に俺の敬語発音が気に食わんからタメ言うたで」
心をパチンとビンタされたように勢いが削がれる。
ブルブルと余韻に唇を震わせて、両手を腿の横に落ち着けた。
視界の隅に点滅するのは音声入力判別の光。
「ええい、二年と三ヶ月と十六日遡れ」
「該当のデータは存在しておりません。二年三ヶ月十五日のデータを表示しますか」
「当たり前だ。表示し……」
視界が白くぼやける。
望んだ記憶が目の前にあるというのに。
老体には見せぬというのか。
八原の腕が床との間に差し込まれる。
ぐらりと傾いたのに気づいたのは倒れ切ってから。
「いい加減にしい。三芳教授呼ぶわ」
「三芳教授に電話します」
「直接行くから黙ってろ!」
気を利かせたロボットは強制終了の言葉に闇に落ちていった。
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