4

 二年。


 二年前なんて微妙な検索させるな。


 何月から何月だ。


 時系列は最新順で問題ないか。


 いやだめだ。


 あれは何月だった。


 思い出してから開け。


 検索キーも暇じゃないんだ。


「なんだその口の利き方は」

 自動返答システム型ロボットの普及に伴い、機械的な敬語だけでなくユーモアのある方言や軽口、秘密めいた言葉のプログラミングが追加された。

「すみません、よく聞こえません」

「聞こえてなければ、その反応はないのだよ」

 両手を掲げて壁に八つ当たりの罵声を浴びせる。

 我関せずと沈黙を保つ白い平面にも苛立ちが募る。

「なぜこんな簡単な記憶の呼び出しができないんだ!」

「お手伝いできずに申し訳ありません。代わりに」

「代わりなどいらん!」

 怒声につられて入ってきた八原が口をあんぐりと開く。

「ちょいちょい、何機械と喧嘩してんねん」

「間に入るなっ。音声入力を妨げるだろうが」

 この四月から新たに准教授となった関西上がりめが。

 ふざけたピンクの髪に、三日月型のカフスが鼻につく。

 いつから身だしなみは無秩序になった。

 途方もなく髭を伸ばし、部屋がゴミ山と化している己は棚に持ち上げる。

「やべえな、じいさん。還暦前にこれは終わってへん?」

「口の利き方には三倍気をつけろっ」

「あんたが初日に俺の敬語発音が気に食わんからタメ言うたで」

 心をパチンとビンタされたように勢いが削がれる。

 ブルブルと余韻に唇を震わせて、両手を腿の横に落ち着けた。

 視界の隅に点滅するのは音声入力判別の光。

「ええい、二年と三ヶ月と十六日遡れ」

「該当のデータは存在しておりません。二年三ヶ月十五日のデータを表示しますか」

「当たり前だ。表示し……」

 視界が白くぼやける。

 望んだ記憶が目の前にあるというのに。

 老体には見せぬというのか。

 八原の腕が床との間に差し込まれる。

 ぐらりと傾いたのに気づいたのは倒れ切ってから。

「いい加減にしい。三芳教授呼ぶわ」

「三芳教授に電話します」

「直接行くから黙ってろ!」

 気を利かせたロボットは強制終了の言葉に闇に落ちていった。

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