2
壊れた鸚鵡の戯言が、チクチクなり続ける。
新しいカーテンが慣れない白い壁は不満そうにため息を漏らし、主人の弱々しい体を見下ろしては息を溜めた。
このまま静寂の中で空気となってしまう人間味の薄れた老人。
そこに息吹を吹き込むように窓が開いた。
「ご存命ですか、教授」
「……三芳君、それを人は冗談と呼ばないものだよ」
軽々と窓枠を跨いで入ってきた助教授に目を細める。
「理由なく休講申請とは、とうとう辞めどきですか。こんなこと、軽口でないと聞けないですからね」
「昨日も誰かに叱られたよ」
「誰ですか」
「誰かだ」
二年ほど空白にしている誰かさ。
猫蚤はすでに卒論実習に入っている。
研究室に訪ねてくるのは足立と彼くらいか。
いや、しかしもっと強烈な存在だった。
三芳が電気ポットを開き、呆れた声を漏らす。
「レンジはともかく、これまで収納場所にしてどうするんですか。温かい飲み物は定期的に摂ってください。心配ですよ」
中に詰まったポストイットを難儀そうに取り出す。
そこに書かれた殴り書きを見ないふりして。
不審な動きをする彼の手元の山に脳髄が揺さぶられる。
「そうだ。茶葉を聞こうと」
銀色の缶なんだ。
映像は出ている。
でも、しまった場所がわからない。
それを知っているのは三芳君じゃない。
猫蚤でも、足立でもない。
更新順序に誤りが生じたのだろうか。
困った。
あの紅茶はどうすれば見つかるんだ。
そんなに飲みたい味でもなかったろうに。
「教授……」
三芳は同じ一言が書かれた紙の山を握りしめた。
ー手伝ってくれ、○○君ー
名前の空白には苦しげなペンのぐねった跡が残る。
二年前に更新した竹葦の脳から当時の准教授の存在は一掃された。
代わりに組み込まれたのが猫蚤という生徒だ。
「ファイル整理、進んでないようですね」
「ああ、手伝ってくれ」
代わりを埋めるに自身の存在はあまりにも心もとない。
三芳は研究室を出た後に、ある人物へ連絡を取った。
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