2
困ったことになった。
なったらしい。
「お手持ちのパスワードはご利用いただけません」
「なあにを言ってるんだ」
後ろの長蛇がくびをもたげる。
早くしろと。
何を遅れてるのだ。
「パスワードは廃止されたよ」
「暗号も使われない」
「電子計算も記憶媒体」
「信号がとってかわったんだ」
「番号なんてない」
「じゃあ数なんていらんだろ?」
誰も答えなかった。
記憶格差というやつか。
脳に保存した暗号たちは?
壁に尋ねても嘲笑される。
「教授、終わりました」
美しい文字の羅列を見せる画面。
「ああ、お疲れ」
いつもなら逃げるように帰っていくのだが。
やはり、今日は違うか。
肩に力のない松篠を眺める。
准教授として毎日顔を合わせてきた。
「ここ辞めたらどこ行くんですかぁ……」
上擦った声は耳に障る。
意識が飛びそうになるのを留める。
いい天気だ。
「んー、まだ記憶法がない国にでも」
「笑えませんっ」
松篠が怒っている。
空気は張りつめて固まる。
びりびりと。
雨の日の髪のように。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます