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 短く二回ノックが聞こえて、竹葦が足早に鍵を閉めようと手を伸ばす。

 直前で扉が開いた。

 大きな影が竹葦を睨み付ける。

「なに閉めようとしてんすか」

「君のその足音は不穏だ、めつ君」

 案の定怒りを漂わせた目元を歪め、松篠が研究室に足を踏み入れる。

 すぐに斉田が会釈をした。

「ああ、斉田教授もいらしてたんですね。お邪魔致しました。相変わらずジーンズ似合ってますね」

 へらへらと笑いながら指を差す松篠に、年上の二人が溜め息を吐く。

「私らはもう少し上手く社交辞令を出来ていたと思うんですがね」

「斉田さんから見れば若僧でしょう」

「その白髪で何をおっしゃいます」

「染めるのが面倒でねえ」

 竹葦が研究室を持ってから二十三年間、斉田は上司風を吹かせることもなく同僚として関わってきた。

 この距離感は素晴らしいものだ。

 礼儀さえあれば良い。

 他は必要ない。

「……あー、茶葉を……そうだ。茶葉だよ、めつ君。茶葉はどこだね」

「はあ? 三芳のですか? そこの引き出しの下の戸棚の右……逆っ。そこの台の、鍋のとなりですよ。違います、その奥の」

「これか」

「です」

 缶の蓋を開けるも、屑しか残っていなかったのでゴミ箱のありそうな方へと投げる。

 床に着く直前に斉田と松篠は両耳に人指し指を突っ込んで塞いだ。

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