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 書類の詰まったレンジを見ないふりをして、本の山に器用に腰かける。

「ところで……斉田さんならご存知だと思うのですがね」

「なんでしょう」

 親指の爪を噛もうとして、そこまで伸びていないのを確認する。

 そんな斉田に爪切りを渡しかけたが、見つからないのでなかったことにした。

「先月の第二水曜何時でしたっけねえ」

 来客中は静かだな。

 壁を一瞥して足下の紙をずらす。

 ああ、明日の公演のチラシだ。

 演劇サークルの。

「先月の第二水曜ですか。えー……ちょっと待ってください。午後一時十五分です。前の説明会が二十分押したのでね」

「そうだった……そうだった……斉田さんが最後でしたねえ」

「そういうことは覚えてらっしゃる」

 苦そうに唇を掻いて、カレンダーの前に仁王立ちした。

 目線を走らせる動作は、歳を感じさせない鋭さがある。

「遺物ですよねえ……私の時代は、毎日破っては捨てていました。日めくり、なんてナンセンスなカレンダーがですね」

 愛しそうに。

「今じゃオークションでしか見られませんよ……そんな紙切れが二万です」

「カーテンに使えば良いものを」

 二人は並んで日焼けした紙を見つめた。

 端の方は切れて、落書きも褪せている。

 前の持ち主は、毎月二十五日に赤く花丸をつけていたようだ。

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