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ふと目線が止まった悪趣味なピンク色のスマホケースを手に取る。
ワニ革風の分厚い機能性のないケース。
竹葦の趣味じゃないと思ったが、そもそも竹葦の趣味なんて知らないと気づいて眼をそらす。
変な隣人の部屋には変なものが数えきれないほどあるのだ。
「妻から貰ったんだ」
「意味ない嘘やめてくれません?」
未婚者であることは知れ渡っているというのに敢えて愉しげに言ったことも、数秒見ていたのを観察されていたことも腹が立った。
竹葦はインスタントのコーンスープを啜り、読みかけであったのだろう小説を優雅に眺めていた。
一向にページを捲らないが。
「竹葦教授が結婚できたら俺三万包みますよ、ちゃーんと」
「めつ君は呼ばんさ」
「准教授ですよ」
言ったそばから、些か傷ついた自分を恥じる。
「ああ、めつ君は結婚してたな」
「死にましたけど」
「子供が?」
「生んでねーっすよ」
「すまない」
「別に」
妻の体内に宿った胎児は、陽の目を見ることもなく病に侵され、母を巻き添えに還っていってしまった。
政府の規則に沿えば、二人の記録を全て抹消登録しないと再婚はできない。
抹消登録とは言い得て妙だ。
「ゴムつけなかった俺が殺したよーなもんですよ」
「登録はしないのかね」
「する意味ないでしょ」
「意味が必要なのかね」
うまく返す言葉は抹消済みのようだ。
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