第40話





 結局、観劇が始まってからも、ハリーはシャーロットを離してはくれなかった。シャーロットはハリーの膝の上で観劇を見る羽目になり、心臓が煩くて、全く集中できなかった。いくら個室で、他人から見えないと言っても、恥ずかしくて堪らない。



 シャーロットが止めてほしいと目で訴えても、ハリーは目を細めて、額や、頬に、口づけを落とす。シャーロットの可愛らしい瞳に睨まれても、逆効果のようだった。




◇◇◇




「もう!酷いですわ。」



 帰りの馬車の中、シャーロットは不満そうに頬を膨らませた。因みに馬車に乗った瞬間、またハリーの膝に乗せられてしまい、そのことにもシャーロットは機嫌を損ねていた。




「シャーロット?」




「・・・ハリー様のせいで、観劇に集中できませんでしたわ!」



 楽しみにしていたのに、と口を尖らせるシャーロットも愛らしい。ハリーはシャーロットの額に口づける。




「すまない。シャーロットが可愛すぎて、我慢できなかった。」



 真面目にそう答えるハリーの顔を見て、シャーロットは顔を赤らめた。




「シャーロット。今度、もう一度観に行こう。次は邪魔しないから。」




「本当ですの?」




 シャーロットにじっとりと疑いの目で見つめられたハリーは、可笑しそうに口許を緩めた。




「少しだけ、触れさせてほしい。」



 シャーロットは身体中を熱くして、ハリーを睨んだ。




「きょ、今日もそう言ってたくさん触りましたわ!」



 ハリーは、シャーロットをきつく抱き締めると耳元で囁いた。




「嫌だった?」



「う・・・。」



「シャーロットが嫌ならもうしないよ。我慢する。」




 シャーロットは困惑してしまった。ハリーに触れられるのは、嫌ではない。ただ、ドキドキして、身体が熱くなって、自分が自分でなくなるような気がして、恥ずかしくて落ち着かないのだ。




「もうしない方が良い?」




「・・・意地悪です。」




 シャーロットは、遠慮がちにハリーの顔に手を添えると、初めて自分から口づけた。ハリーは、一瞬目を見開いた後、心底嬉しそうに破顔した。




「・・・もう少し、お手柔らかにしてほしいだけですわ。」



 シャーロットはハリーの胸の中に顔を埋めると、小さく呟いた。拗ねるのも、甘えるのも、この腕の中だけなのだ。




「ああ。」



 嬉しそうに答えたハリーだが、それからもシャーロットのお願いは叶えられなかった。


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