第38話




「ソフィア?可笑しくないかしら?」



 今朝から何度も尋ねられたその問いへ、ソフィアは根気強く答えていた。今日は、ハリーとシャーロットが心を通わせてから初めてのデートだ。それまでにもお互いの家で会うことはあったが、なかなかスケジュールが合わずにいた。久しぶりのデート、しかもお互いの気持ちが分かって初めてのデートということでシャーロットは心を弾ませていた。



「はい、とてもお美しいですよ。ハリー様もお喜びになります。」



「そうかしら・・・やっぱり髪飾りが派手じゃないかしら?」



「では、こちらに致しましょう。」



 何度も繰り返されたやり取りに、ソフィアが嫌がらず付き合ってくれていることに、漸く冷静になり気付いたシャーロットは、困ったように眉を寄せた。



「ソフィア・・・ごめんなさい。私、朝から我が儘だったわね。」



 凛々しく美しい顔で、申し訳なさそうに謝るシャーロットに、ソフィアは目を細めた。



「いいえ。昔から全く我が儘を言わない、手の掛からないお嬢様でしたから、存分に仰ってくださいませ。」



 シャーロットの要望通り、髪飾りを代えたソフィアは、小さく口許を緩めた。





◇◇◇



「シャーロット・・・。」



 公爵家に到着したハリーは、シャーロットの姿を見るなり、硬直した。



「ハリー様?どうされましたか?」



 もしかして、今日のドレスはやはり似合っていなかっただろうか。髪飾りは最初の物の方が良かっただろうか。朝から高揚していたせいで、化粧が崩れてしまったのだろうか。



 渦巻いた不安は、ハリーの次の言葉ですぐに吹き飛んでしまった。



「シャーロットはいつも美しいが、今日は特段美しい。」



「ハリー様。」



 嬉しそうに微笑むシャーロットへ、ハリーは頷き言葉を続けた。



「ドレスはとても似合っていて、一瞬妖精が舞い降りてきたのかと勘違いしたほどだ。髪飾りも、今日のドレスによく合っていて、シャーロットの美しい髪を際立たせている。それに・・・。」



「ハ、ハリー様!もう、もういいですから!」



 シャーロットを褒め称える言葉が続き、最初は嬉しかったものの、徐々に居たたまれなくなったシャーロットは慌てて制止した。



「いや、シャーロットへの思いは全て伝えたい。」


 もう、すれ違いたくないんだ、と囁かれ、シャーロットは頬を染める。





「はい、後は馬車の中でしてくださいませ。」



 呆れたようなソフィアの声に、ハッとさせられるが気付いた時には、馬車に押し込まれていた。



「お気を付けて、いってらっしゃいませ。ハリー様、くれぐれも節度ある触れ合いでお願い致します。」



「あ、ああ。」



 ハリーは、ソフィアの鋭い眼差しに目を丸くした。馬車のドアが閉められ出発すると、小さく息を吐き「あの目なら、騎士団でも十分通用するな。」と呟いた。シャーロットも大いに同感だった。

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