第37話 ハロルドside
俺の最愛の妻、ソフィアが最近元気が無い。
ソフィアは、あまり感情が表に出ない方だし、そこも可愛い所だ。他の者の目には分からないだろうが、出会って十三年、一日も欠かさずソフィアを想っている俺には分かる。ソフィアは、気持ちが落ち込んでいるのだ。
少し前、シャーロットお嬢様のご婚約が決まり、ソフィアはお嬢様のフォローや婚約に関わる準備などで多忙を極めていた。だが、その時は、表情は変わらないが生き生きしていたのだ。
今は、お嬢様もハリー様との関係も良好で、ソフィアのフォローもあまり必要無くなった。婚約準備も落ち着き、忙しい訳では無い。
「ソフィア。」
俺はベッドの端に腰掛けると、ぼんやりと横になっている彼女へ声を掛ける。
「おいで。」
両腕を広げると、ソフィアはもぞもぞと起き出して、ペトリ、と俺に身体を預けた。
「参ってるみたいだね。」
こんな風に寄って来てくれるのは、正直この十三年で片手で数える程だ。いつも俺からベタベタ触れているせいもあるのだけど。
「別に、参ってはいないです。」
素っ気ない言葉の割に、俺の胸に顔を埋める仕草に、でろでろに甘やかしてあげたくなる。けど、それはもう少し後から。
「お嬢様のこと?」
ソフィアの中心は、全てシャーロットお嬢様だ。俺たちがハワード公爵家に来た十三年前から、それは変わらない。
「お嬢様、ハリー様と仲睦まじくなられて、それは嬉しいんですが。」
「うん。」
「もう、一番に相談してくれるのは私では無いのだなぁと思っただけです。」
俺の胸に埋めていた顔を、ぐりぐりと押し付けてくる。可愛い。可愛すぎる。ソフィアの綺麗に揃えられたボブヘアをくるくると弄る。
「そうかなぁ。しばらくしたら結婚式の準備が始まるでしょ。その時、ソフィアに相談したいと思うけど。それからお嬢様が懐妊した時とか、公爵夫人として社交が始まってからとかね?ソフィアの力が必要な場面はいっぱいあるはずだよ。」
「そうかもしれませんが。」
「それとも、ソフィアは全部俺に相談してくれてるの?」
配偶者が全てに於いて一番ではないと言いたかっただけだ。ソフィアはきっと、そんな訳無いでしょうと、一蹴するのだと思っていたから。
「一番、頼りにはしています。」
俺、死ぬのかな。こんなに可愛いソフィアに甘えて貰えるなんて、明日死ぬとしか思えない。
「死んだら困ります。」
いつの間にか心の声を口に出していたようで、ソフィアが不満気にそう言った。
「ソフィアが可愛すぎて辛い。」
俺はソフィアをぎゅうぎゅうと抱き締めて、額に口づけを落とした。我慢を止め、ソフィアをでろでろに甘やかし始めた。
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