第26話



 それからも俺とシャーロットはデートを重ねた。彼女はいつも愛らしく、俺はハワード公爵との約束をいつか破ってしまいそうで常に気を張っていた。ハワード公爵との約束では、言葉では口説くことは許されていた。しかし、四十年近く男女のあれこれとは無縁の人生だった俺は、褒め言葉ひとつ上手く出てこなかった。


 舞踏会の時もそうだ。折角シャーロットが俺が見立てたドレスを身に付けてくれたというのに、何とか捻り出したのは「とても似合っている」のお粗末な一言。美しい、と。愛らしい、と。俺の腕の中に閉じ込めておきたい、と。心の中では叫んでいたのに。大した褒め言葉も言えない俺だったが、シャーロットは嬉しそうに微笑んでくれ、それだけで満たされていた。




 公爵に散々釘を打たれ後、シャーロットの顔色が良くないように見えた。「緊張しているみたいです。」と話す彼女に、俺は「帰りたいときにすぐ帰ろう。」なんて提案をした。シャーロットは冗談半分に捉えていたようだったが、俺は本気だった。エドモンド第二王子とシャーロットが会うことを俺は恐れていた。緊張している、なんて言っていたけど、本当は愛する相手が、他の誰かと隣に立っている姿を見たくないだけではないのか。もう叶わない相手への思いに、苦しんでいるのではないか。彼女の表情を見ていると、そうとしか思えなかった。


(必ず盾になろう。そして、絶対に渡さない。)


 そう心に誓った。・・・まさか、シャーロットの顔色が悪いのは、俺が隣に座らなかったことが要因だなんて夢にも思わずに。



◇◇◇


 王城に辿り着き、会場に向かう間、シャーロットは不躾な視線に幾度となく晒された。俺は怒りを抑えるのに必死だった。俺が一睨みするだけで、呆気なく視線を逸らすほど軟弱な者ばかりだった。



「ふふふ、ここまで庇っていただくなんて、お姫様になった気分ですわ。」


 ふと、シャーロットが耳許で囁いた。俺にだけ見せる嬉しそうな微笑み、可愛らしい声、ふわりと漂う彼女の香り、間近に感じる彼女の体温・・・一瞬我を忘れそうになる。目も合わせられずにいると。


「・・・変なことを話してしまい申し訳ありません。」


 先程とは正反対の悲しげな表情を浮かべる。そう、彼女はずっと俺に壁がある。ある一線からは決して越えようとしてこない。だから俺は、シャーロットがエドモンド第二王子を愛していると確信しているのだ。



「・・・シャーロット嬢があんまり可愛らしいことを言うから、ハワード公爵との約束をどう守ろうかと考えていただけだ。」


 思わずぽろりと出た言葉に、身体も素直に動いた。シャーロットの美しい頬を優しく撫でると赤く染まる。そんな彼女を、抱き締めないようにするなんて、とんでもない苦行だった。

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