第6話
「・・・・・・・・・・・・お父様、それは一体どういうことでしょうか」
長い静寂の時間を終えてから、私はようやく口を開いた。
「私は辺境へは行けないはずです。」
ハワード公爵家には、私一人しか子どもがおらず、後継者は私の結婚相手か、私が女公爵になるか、しかない。親族の中から養子を取ることも出来なくはないが、目ぼしい方が居ないこともあり、私が女公爵になる方向で学んできた。
本当は、ハリー様と結婚して辺境で暮らすことを夢見たことはある。だが、それはただの夢だ。現実では不可能なことだ。だから、考えないようにしていたのに。
「シャーロット、私がお前を国外へも辺境へも行かせるわけ無いだろう。」
「それでは、婚約なんて出来ないではありませんか」
「彼は異動して王宮騎士団の騎士団長となったのだよ。だから王都にいる。辺境へは行かなくて良いんだ。」
「そんな、異動なんて・・・何があったのですか。」
王子妃教育を受けていた頃、王宮関係者の人事に関しても教えられていた。王宮騎士団から辺境騎士団への異動は希望者が多いと聞く。だが、辺境騎士団から王宮騎士団への異動はほとんど希望者はおらず、その為異動はほぼ無い、と講師が話していた。異動なんて、何か政治的な裏の理由でも無ければ、ハリー様のような実力者には求められないだろう。裏の理由、例えば・・・。
「確かに辺境から王宮への異動は稀だ。だが、全く無い訳ではないだろう。それに婿養子に入り、公爵家を継ぐ覚悟もある。無論シャーロットの補佐は欠かせないがな。」
「・・・お父様、何か悪巧みをなさっているのではないですか?」
「なっ・・・!シャーロット、何故そのようなことを言うのだ。悪巧みなどしていない!」
お父様の瞳が、一瞬不自然に揺れたのを私は見逃さなかった。
「可笑しいではありませんか。この婚約、公爵家には利点がありますが、ハリー様にも伯爵家にも何も利点はありません。もしかして、私の婚約者が全く決まらないからって、ラッセル伯爵に泣きついたのではありませんか。・・・いいえ、何か理由をつけて脅したとしか考えられません。」
公爵家には、後継者も確保でき、国一番に扱いづらい行き遅れの令嬢が婚約でき、利点しかない婚約だ。ハリー様や伯爵家からしたら、公爵家と縁続きになることは利点にように思えるが、ハリー様もそのお父様のラッセル伯爵も、爵位や権力への執着は薄い。以前、ラッセル伯爵の騎士団長としての業績を讃えて陞爵のお話もあったが、それを伯爵はお断りされた。そのような方が公爵家と縁続きになることを利点とは思わないだろう。
「相手の方を脅してまで、私は婚約をしたくはありません。予定通り、私が女公爵になります。」
「シャーロット、私は伯爵を脅したりはしていない。冤罪だ。大体、彼には利点しかないではないか。」
「ハリー様の、利点とは・・・。」
「そんなの決まっているじゃないか。私の可愛い可愛いシャーロットと婚約できるなんて、彼には勿体無い利点だよ。」
お父様はそれはそれは満面の笑顔で、そう言い切った。
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