第7話
「はぁぁ~・・・」
自室に戻るとベッドに体を投げ出し、大きく溜め息をついた。
「お嬢様、きちんとお座りになって下さい。元、王子妃候補なんですから。」
侍女のソフィアはいつもと変わらない落ち着いた声で私を注意する。ソフィアは、私が王子妃候補になった10歳の頃からずっと私についてくれており、気心知れた仲だ。
「ソフィア・・・今日だけは大目に見てちょうだい。」
「お嬢様は、王子妃候補をクビになった時ですら、いつもと変わらずに居られたのに。大体ずっと想われていたハリー様とのご婚約なのですから素直に喜んでおけばよろしいのではありませんか。」
「な、なんで・・・」
開いた口が塞がらない私を見て、ソフィアは愉快そうに微笑んだ。
「ご心配なく。私以外は気付いておられませんよ。旦那様も、奥様も、全く気付いておりません。お嬢様は幼い頃から、気持ちを悟られないよう振る舞われるのがお上手でしたから。」
そう、誰にも気付かれないように細心を払った初恋。
「そうね、ずっと一緒にいたソフィアには流石に気付かれてしまうわね。」
「お嬢様はどうしてこのように落胆されているのでしょうか。」
私は、ほぅっと息を吐き、今の自分の気持ちを吐露した。
「・・・勿論あの方と婚約できるなんて嬉しいに決まっているわ。」
「でしたら・・・」
「だけど、ハリー様やラッセル伯爵は、お父様に何か脅されるなり、私に言えないような条件を付けられて渋々了承したに違いないわ。」
一瞬だがお父様の動揺した顔、あれは何か隠している時の顔だ。
「確かに貴族同士の結婚ですから、何かしら条件があっても可笑しくはありません。それは貴族社会のなかでは当たり前のこと。お嬢様だって常々仰っていたではありませんか。公爵家の為であれば、どの殿方とでも結婚すると。」
「それは、ハリー様以外であればそのつもりだったのよ。だけど、お慕いしている人と結婚して、相手からは愛情を貰えないなんて、辛すぎるでしょう。ソフィア、私恐ろしいの。ハリー様と婚約したら、私、ハリー様の気持ちを期待してしまうわ。だけど近くで過ごせても、きっとハリー様は私を見ないわ。ううん、お父様の付けた条件のせいで私を恨んでいるかもしれない。私と結婚しても愛した方の所へ通われるかもしれない。それが怖いの。」
「お嬢様・・・。」
いつもは、毒舌なソフィアも流石に優しく私の背中に手を添えた。
「お嬢様、少し私の昔話を聞いてくださいませんか。」
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