第3話



 ハリー=ラッセル様。36歳、未婚。ラッセル伯爵家の次男で、騎士をされている。騎士としてとても優秀らしく、三年前に騎士団の花形である辺境騎士団の所属となる。そして、この三年という短い期間で辺境騎士団の団長となった、規格外なお方だ。



 ハリー様と初めてお会いしたのは、私が8歳の頃。王子妃候補になる前のことである。ハリー様のお父様であるラッセル伯爵が、私のお父様と学生時代からの友人だったので、よく伯爵家へ訪問していた。ラッセル伯爵家は、騎士家系であり、ラッセル伯爵も王宮騎士団の団長をされていた。ハリー様も既に王宮騎士団に入団されており、なかなかお会いする機会はなかったのだが、ある日たまたま非番だったハリー様と会うことができた。



 ラッセル伯爵により紹介され、挨拶された時、私の胸は高鳴った。背は高く、騎士らしく体格もよく、無愛想な表情は武骨な印象を与えた。だが、幼い私に出来るだけ怖がらせないようにと、膝を折り目線を合わせるその姿に、無愛想な表情を何とか弛ませようと必死な様子に、私はあっさりと心を奪われてしまった。




 それからは、ラッセル伯爵家に行く度にハリー様の姿を探した。当時、私8歳、ラッセル様24歳である。大人から見たら、ただの憧れのように見えるかもしれない。だが、私はあの十二年前と全く変わらない想いを、ずっと抱えている。




 その二年後、私は10歳になり王子妃候補となった。想う人がいるのに王子妃候補になるのに抵抗が無かった、とは言えない。だが、家の為に結婚するのが私の役割なのだと自分に言い聞かせた。





(殿下とは、ずっと、おあいこ、だったのよね。)




 私がハリー様をお慕いするように、エドモンド第二王子もお慕いしている方がいることを知っているのは、恐らく私だけだろう。


 御相手は、今婚約されているステファニー王女だ。ステファニー王女とは、王子妃候補になった頃から、国家間の交流を目的としたお茶会で何度かお会いしている。その度に、エドモンド第二王子も、ステファニー王女も、一瞬だけ熱い視線を送ることがあった。お二人とも周りには決して悟らせないし、私や他の王子妃候補を無下にするようなことはしない。お二人の想いには、誰も気付いていないようだったし、お二人も互いの想いには全く気付いていなかった。だけど、あの視線は、私がハリー様を見るものと全く同じ熱を持っていた。




(殿下は後ろめたいのよね。自分はずっと他の方を愛していて、愛する方と思わぬ形で婚約できて、一方で私は行き遅れになってしまったから。)



 本当は、おあいこ、なんだと言ってあげたら良かった。殿下がステファニー王女を愛するように、私もずっとハリー様だけを愛していたのだと。そうしたら、何の躊躇いも無く、殿下は幸せになれた筈なのに。



(ごめんなさい)


 ずっと想いを隠して私を大切にしてくれた大事な幼馴染へ、心の中で謝ることしか出来なかった。

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