第2話



 私、シャーロット=ハワード公爵令嬢が第二王子妃候補となったのは、十年前、私が10歳になったばかりの頃だった。第二王子妃候補は私の他に二名いたが、第二王子含め皆同い年ということもあり、また第二王子のお人柄もあり、バチバチとした王子妃候補争いは全く起こらず、第二王子と王子妃候補、四名仲良く幼馴染のように楽しく過ごしていた。



 状況が変わったのは、三年前、私たちが17歳の時。それまで隣国との関係が悪く、冷戦状態だったのだが、当時の隣国の国王が病に倒れ、その長男が即位された。隣国の新しい国王は我が国との関係回復を図り始めた。そして、隣国から、親愛の印として、ある提案がなされたのだ。隣国の国王が溺愛する長女、ステファニー王女と、エドモンド第二王子との婚約である。



 その提案がなされた直後、他の王子妃候補二名はすぐ候補を辞退した。私も当然そうすると思いきや、そんな簡単な話ではなかったらしい。



 第二王子と隣国王女の婚約は確定事項ではなく、ひっくり返される可能性もある。その場合に、王子妃候補が不在だと、王家としては非常に困る。そこで、王子妃候補として残っておいてほしい、と言う訳だ。


 勿論、私のお父様は断って下さった。婚約がひっくり返されなかった場合、私は行き遅れになってしまうからだ。


 しかし、国務大臣というお父様の立場と、国家間でのナイーブな問題ということもあり、結局私は王子妃候補を続けることになった。



 当時、王家は、国王陛下も王妃様も、驚くほど誠実に、私へ状況を説明し、謝罪までして下さった。エドモンド第二王子も同様だ。それ程、事が深刻な状況だったのだろう。だから、私も国の為に王子妃候補を続ける事を決心した。



 お父様は、何度も「すまない」と私に頭を下げた。私が「何も問題ありません」と何度伝えても、悲しそうに謝るのだ。王家も、お父様も、私が傷つくと思っているのだろう、本当は違うのに。



 そして、結局第二王子と隣国王女の婚約が確定し、私は予定通り王子妃候補をクビとなった。









(やはり、殿下にだけでもお伝えした方が良かったかしら)




 もし、この事を伝えたら殿下の心も少しは晴れただろう。殿下の事を考えるのなら伝えるべきだった。だが。




(駄目ね。あの剣幕じゃ、私がお慕いしている方、がいるなんて知ったら、どんな手を使っても婚約させたでしょうね。)



 公爵家の令嬢として、どんな縁談でも受ける覚悟はある。ただ、あの方とだけは、権力を使って無理に婚約を結ぶなんて、どうしても嫌だった。



「ハリー、さま」


 一人呟いた名前は、重たく、ゆっくりと落ちていくように感じた。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る