王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく
たまこ
シャーロットside
第1話
「すまない…何度謝ろうが全く足りないだろう。君には本当に申し訳ない。」
国中の令嬢を虜にする美男子、エドモンド第二王子が繰り返し頭を下げる。王族がこのように頭を下げることなど、本来あってはならない。
「殿下、どうか頭を上げてください。前々から予想されていたことです。」
「しかし!君の…君の未来を壊してしまったんだ。あんなにも君は献身的で、努力家で…それなのに。」
「私のことで、心を痛めないでください。私の将来のことまで御気遣いいただき感謝致します。それだけで、十分ですわ。」
「だが…」
「殿下から、たんまり慰謝料も戴きましたし?あれだけあれば一生遊んで暮らせますわ。安心してくださいませ。」
冗談混じりに話しても、殿下の表情は酷く険しい。殿下は、誠実な方だ。女性として愛していなかった私のことも、親愛の気持ちを持って十年間大切にしてくれていた。私は、この誠実な殿下の心をどうにか軽くできないかと足掻いた。
「殿下、王子妃教育は、決して簡単なものではなく、辛いこともありました。逃げ出したい日もありました。殿下とこっそり愚痴を言い合った日もありましたね。ふふふ、あの時はとても楽しかったですわ。」
「ああ」
思い出話になり、殿下の表情も幾分か和らぐ。
「こっそり王宮の外を出て、遊んだこともありましたね。あの時の市場で買ったフルーツジュース!あの味は忘れられませんわ。」
私がうっとりしていると、殿下は苦笑いを浮かべた。
「あの後、陛下に二人して雷を落とされたこともな。」
「ええ、今となっては良き思い出ですわ。殿下、そうやって十年間、私たちは共に遊び、学んで参りました。烏滸がましいですが、私は殿下のことを、戦友のように感じていたのです。そして大事な幼馴染でもあります。なので、殿下が国のために行うことで、私が傷ついたり、悲しんだりするようなことは有り得ないのです。だから、殿下が私の事を心配する必要はないのです。」
「だが」
「それに王子妃教育で得られた知識を存分に生かして、これからは公爵領の経営を補助していけたらと、考えています。だから、殿下、私の十年間は何も無駄にはなっていないのですよ。」
「シャーロット」
「殿下が私の為に何かしたい、と心を砕いて下さっているのなら、どうか幸せになって下さい。戦友が幸せであることが、私の幸せなのです。殿下がお幸せであることを、心よりお祈り申し上げます。」
にっこり笑った私に、殿下も流石に謝り続けるのを諦めたようだ。
この日、私は20歳にして、王子妃候補をクビになった。
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