第32話 リリィの決意

 リリィは唇をギュッと噛んで上を向いている。

 そして、こちらをチラッと見た後、申し訳なさそうに秒で下を向いた。何だか小動物みたいな動きだ。


 リリィが自分の話しをすると宣言してから、もう十分ほどになるが、ずっとこんな感じで話すことをまとめている。リリィが若干偉そうなのは長い話が苦手で、なるべく話しを短くしたいからなのかもしれない。

 普通ならイライラしそうなところだが、ヒメウツギも凪も相当に我慢強い性格なのか、涼しい顔でリリィが話すのを待っている。いや、彼らが生きてきた長さから考えればものの十分くらい僕で言う一秒以下の感覚なのかもしれない。

 時間の感じ方は人ぞれぞれなれど、長生きが過ぎた者たちの時間感覚は僕の考えているような早さではないのだと思う。


「雄二どの」


 それでもリリィの沈黙が十五分ともなると、流石に間が長いと思ったのか、ヒメウツギが僕に話しかけてきた。

「今回の敵のことを私なりに分析したのですが、少し良いですか?」

 僕はリリィの方をチラッと見た。いつの間にか机の上に置かれた円座の上に座り、立膝で目を泳がせながら青い顔をしている。これはまだ時間がかかりそうだ。

「うん。お願い」

「はい。では…私は当初、『犬』は我々の戦力を甘く見ていると考えていました。ですので、脅せばおとなしくなるだろうと、意図的に強力な怪異を送り込んでこなかったのだと思っていました。しかし、今回の両面宿儺でその考えを改めました。両面宿儺は怨霊の格で言えば最上級です。両面宿儺が本来の力を出せば我々はひとたまりもなかったかもしれません」

「え?本来はもっと強いの?」

「はい。そもそも怨霊の中でも最上位の一つなので、城下町一つ潰すくらい訳ない力があります」

「そ、そうなんだ」

 何だか今回は色々な面で助かっているように思えてきた。

「『犬』は呪術で呪いを呼び出す事はできたようですが、呪いの強さを補完する儀式などには疎いように感じます。そして、呪いについての認識も少し甘いように感じます」

「うーん。何百年も前から生きているのに呪いとか儀式とかにも疎いの?」

「そこが、少しわからないところです。両面宿儺を呼び出せるほどの実力と、最新技術を駆使した戦術、卓越した情報収集能力を持ちながら詰めが甘いのです。このレベルの呪いを返されれば呪いをかけた『犬』もタダでは済まないはずなのに、です」

「おっちょこちょいなのかな?」

「いや、まさかそんな…しかし、この状況ではそうなのかもしれないと思わないでも…」

 机の上のリリィと同じようヒメウツギまで考え込んでしまった。


 今後、怪異が呪術を使って攻撃を仕掛けてきた場合、あの両面宿儺よりも更に強い敵と戦う可能性があるのか…そう考えると、人間側にも源信さんや源相さんのような術式を使える人間をもっと作らなければいけない気がしてきた。いや、源信さんたちも仲間を作る努力はしていたはずだ。しかし、今のところ仲間を多くするに至っていない。


 一つだけ思うのは、これだけ術者がいない現状は異常だということだ。


 時代を追う毎に、その手の能力が失われていくのだろうか?それはどうしてなのかの検証もしつつ、『犬』に対処していかないといけないだろう。


 すると、僕の肩の上でヒメウツギが再び口を開いた。何か考えがまとまったのだろうか。

「考えを巡らせてみましたが、やはり『犬』の性格は汲み取りかねました。しかし、『犬』が呪いを発動させたという事は、我々全員の抹殺が前提になります。この前提からすると、皆が協力し合い、よく助かったと言っていいと思います」

「うん。本当にリリィも凪もすごかったよ。本当に格好良かったたね」


 それにリリィと凪がピクッと反応した。リリィに至っては顔が真っ赤になっている。


「確かにご両人の活躍、誠に大したものでした。涼海殿がこの部屋に仕掛けたお札も、三体の式神も効果的でしたし、リリィ殿の祓いがあったおかげで撃退できたと言っても過言ではありません」

 凪は僕の膝の上で貧乏ゆすりを始めた。ヒメウツギに認められたのが相当嬉しいのだろう。

 ヒメウツギは話しを続ける。

「ただ、一つ覚えていて欲しいのは、雄二さまの戦い方があっての勝利だという事です。大規模な儀式をせずに発動させる神道の術式と陰陽術は、怪異の弱体化を助ける事はできますが、怪異にトドメを刺すのには向いていません。怪異を行動不能にするには、威力の高い雄二さまの力の方が向いています。そして、今回の勝因は、『犬』の想定以上に雄二どのの成長が早かったことに尽きます。九尾の狐さまの力と人間の術式を混ぜた攻撃の威力は高く、それは『犬』の想定以上だったのだと思います」

「そ、そうなのかな?」

「はい。間違いありません。そして、もう一つ分かったことが一つあります。白い九尾の狐の側は、雄二どのを殺しても問題ないという考えに変わりました。言い換えれば、白い九尾の狐が復活した時、黒い九尾の狐さまの魂を取り込まなくとも問題ないと考え直したとも言えます。現代の人間には、霊的能力を以って怪異を祓える者もほとんどおりませんし、強大な力を持つ白い九尾の狐が復活した際、彼女の魂を入れる身体さえ手に入れてしまえば、もう白い九尾の狐を抑え込める者など存在しません」

 ヒメウツギは一呼吸おいた。そして、声を低くした。

「『犬』がそういう結論に至ったのは、雄二どのと何度かやり合った事で、我が主人の魂の強さを感じたからでしょう。初めは雄二どのを殺してしまうと我が主人の魂がどうなるか分からず、本格的な攻撃を躊躇していたようですが、我が主人の魂の強度であれば消滅する事はあり得ず、呪いごと封印しても問題ないと結論づけたのだと思います。雄二どのを亡き者にしたとしても、我が主人の魂は数百年もすれば復活できます。その時に魂を回収すれば良いと考えたのでしょう」

「へえ、ちょっと戦っただけで本当にそんなこと分かるの?」

「本来、魂というものの強さは掴みづらいものですが、白き九尾の狐の眷属たる『犬』ともなれば、直接対峙する事でその強さを感じることなど容易いはずです。だからこそ『犬』は必勝を期して呪いを送ってきたのです」

 なるほど。黒い九尾の狐の魂の強さを感じた事で、長期の計画に鞍替えしたのか。そして、生きる時間が違うという事は、このような計画が立てられるという事なのだ。


 今しか生きられない僕たちと、数百年を生きるヒメウツギたちの感覚は違う。これは確実に違う。


 そんな事を考えていると、膝の上で大人しくしていた凪がくるっと上半身を反転させ、僕とヒメウツギを見た。今にも凪の顔が僕の頬につきそうだ。いや、ちょっと近すぎる。

「でもね、そうとも言えないかもよ。この呪いを成立させたのは本当に『犬』なの?もしかすると違う奴かもしれないじゃない」

 凪の最もな疑問に、ヒメウツギは澱みなく答えた。

「ふむ。その可能性については、私も何度も考えた。しかし、涼海殿も知っての通り、そもそも呪いというものは、相手を殺したいくらいに憎んでいないと発動しないもの。この性質からすれば、雄二どのを憎む理由のない怪異にはそもそも呪いを作ることは不可能。もう一つ言えば、この強力な呪いを『犬』以外の怪異がスマートフォンを通じて送り込むのも不可能だ」


 なるほど。呪いとはそういうものなのか。


 相手がちょっと嫌いなくらいでは呪いは発動しない。それはそうだろう。たまたま相性の悪い相手がいたとして、そいつにムカついただけで呪いが発動していたら世の中死人だらけだ。

 凪もこれには納得したようだ。目を瞑って頷く。

「うーん、確かに呪いはどんな宗派でも特殊だもんね。言霊だってそれなりに力があるけど、あれほど強力な呪いを呼ぶことはできないからねえ。でも、『犬』は何で雄二くんをそれほど嫌いなんだろう?」

 首を傾げる凪にヒメウツギは言う。

「『犬』は白い九尾の狐の眷属。その仇的となれば恨みも相当なものになります」

「でも、『犬』は雄二くんと直接会ったこともないだろうし、どうやって憎むのか分からないよ」

「そこは想像力で補ったか、そもそも我が主人である黒き九尾の狐さまを呪ったのかもしれないな…いや、それはないか。ともかく、『犬』ともなれば、自らの想像を自分に『思い込ませる』ことも可能だ。『思い込み』で雄二どのを殺したいほど憎い存在にして、何かの代償と共に呪いを発動できた可能性はある」


 とんでもない話しだ。

 

 勝手な想像で僕を殺したいくらいに憎まれても困る。『犬』と対峙した時、やってもいない罪を押し付けられるのは勘弁願いたい。僕は敵ではあるが、『犬』に対して何かをやった覚えはないのだ。刺客はいつも向こうから勝手に送り込まれてくる。その上、やってもいない事で恨まれては敵わない。

「その話本当?」

「そのような可能性もあるという話しです。ですが、そう考えなければとてもではありませんが、両面宿儺という高度な呪いを作って、我々に送り込む事はできません」

「そ、そうな…の…か…」

 僕は言葉に詰まってしまった。


 『思い込み』


 考えてみれば、確かにこれも立派な呪術なのかもしれない。世の中には催眠術と呼ばれるものもある。認識というものはやり方次第で凶器にもなってしまう…恐ろしいことだ。しっかりと自分を持って流されないこと。一部宗教による洗脳も根は同じなのかもしれない。そう考えると怖いな、『思い込み』…

 

 さて、呪いについてはまた考えよう。リリィの考えはまとまったのだろうか?


 僕はリリィをチラッと見た。プレッシャーをかけたくないので実に控えめに見たつもりだが、リリィは僕の目の動きに瞬時に反応して下を向いてしまった。


 あれだけ物事をはっきりと言うリリィが、自分の説明にこれだけ時間がかかるのはおかしい。もしかすると、思い出すのも嫌な記憶を呼び起こしているのかもしれない。

「あ、あのリリィさん」

「リリィ」

 なぜ、涼海さんと同じ呼び捨てのくだりをしなくてはならないのか?女性は遠慮されることを嫌うのだろうか?

「リリィ、その…どうしても話せなかったり、思い出したくないことがあれば無理しなくてもいいよ、ちょっと休もうか」

 すると、リリィの目が潤んだ。


「だ、大丈ぅぶだぼん」


 リリィは大泣きした。涙と鼻水で顔が大変なことになっている。紙を渡したいが、物理的な紙を渡しても拭けないのでどうしたものかと思っていると、凪が布のようなものをリリィに手渡した。リリィはそれを使って顔を拭いた。よく分からないが、あっちの世界のものであればこちらと同じように使えるようだ。


 鼻をかんで涙を拭くと、リリィは少し落ち着きを取り戻した。


 そして、いつもの無表情にも見えるポーカーフェイスに戻ると、僕を睨むように見ながら口を開いた。

「よし、では話す」

 このトーンはいつもの感じだ。きっと感情を表に出したのでスッキリしたのだろう。リリィは、窮愁の全てを飲み込んで心の奥底に隠しているようなイメージがある。こうして腹を割って話せる人間が周りにいなかったのかもしれない。

「まず、最初に言っておくことがある。この話しは聞いていて決して楽しいものではない。不快に思うことの方が多いと思う。それでも私はこの話しを聞いてほしい。それは、私という人間がどんな人間なのか知っておいてほしいのもあるし、今の状況を説明するのには避けて通れない話しだからだ。その上で、この先どうするかみんなで考えてほしい」

「うん。分かったよ。みんなもいいね?」

「もちろん!!」

「右に同じ」

 凪もヒメウツギもリリィの話しを聞いてこれからどうするのかを考えてくれるようだ。リリィを仲間として受け入れたとも言える。


「まず、私はとある神社の関係者だ。皆も知っての通り、日本の神社は怨霊を閉じ込めておく場所だ。例外もあるが、巨大な怨霊がいるところほど大きな神社であることが多い。大きな怨霊を封じ込めるにはそれだけ大きな結界を作らなければならないからだ」


 これは源相さんや源信さんの話しと合致する。


「怨霊は国津神ばかりではなく、もちろん天津神にもいる。怨霊になってしまうとむしろ天津神の方が対処に困るほどだ。それは、日本において天皇家が神に近い存在として、今現在も数々の儀式をしていることからも分かると思う。天皇家は年間を通じて多くの儀式をする事で、歴代の天皇を敬い、歴代の怨霊を鎮めているのだ。では、思いつく限りでいい、大きな怨霊をあげてみてくれ」

 リリィは僕を見て言う。

 まあ、僕はそういう知識がほとんどないので、当然の質問だろう。

「よく聞くのは出雲大社の大国主と太宰府天満宮の菅原道真かな」

 リリィはうんうんと頷く。

「そうだな。その二人は大怨霊だ。しかしながら彼らは国津神や貴族であって天皇家ではない。では、天津神の怨霊で思い浮かぶのは?」

「え…崇神天皇?」

 リリィの口角が少しだけ上がった。

「確かに名前は少し似ている。しかし、正解は崇徳天皇だ。まあ、崇道天皇も怨霊なのでこちらも正解だ。崇俊天皇も暗殺されているから入るかもしれない。崇神天皇はどちらかといえば怨霊を祓った方の天皇だな」

 うう…恥ずかしい。歴史の勉強はしているつもりだが、詰めが甘い…それにしても崇の付く天皇は不幸な人が多い。

「あ、あとは長屋王とか?」

「ふむ。よく勉強しているな。確かに彼は怨霊になってもおかしくはない。しかし、私の知っている限り、彼の墓に結界らしきものは見当たらない。長い年月のうちに、結界が無くなってしまったとも、祟るべき一族がいなくなったので無害になったとも考えられるが、あれだけの人物の墓に結界を貼らないとは考えにくい。だから、私は彼が全く別の場所に封印されているのだと思っている。まあ、墓の話しは置いておいて、長屋王は相当の恨みを持って亡くなっている。長屋王が怨霊になったとすれば、崇徳天皇と同格の怨霊になってもおかしくはない。いや、おそらくは相当な怨霊になったはずだ。であれば、その墓の場所に結界を張る以外にも、念を入れてもっと大きな括りで結界を張ったのではないかと思う。例えば怨霊を封じている大きな神社やそれに関係している神社を直線で結ぶと巨大な五芒星や三角形ができることが多い。それはそうなるような場所にわざと作っているからだ。長屋王に関係する神社や建物が、結界を形成する神社仏閣の直線上や五芒星、三角形の中にあれば、それは限りなくそこに長屋王が封印されている可能性が高い」

「さ、三角形ですか?」

「ああ。当時の測量技術は相当なものでな、そこの涼海凪に聞けば分かるが、平安期の陰陽寮の測量技術は現代の測量技術と比べても遜色ないほどだ。だから、平気で出雲大社と伊勢神宮ともう一つの神社を二等辺三角形で結べたりする」

「え?そんなに離れているのにですか?」

 僕はその規模の大きさに驚いた。

「ああ。江戸———今の東京だって、静岡の久能山東照宮から富士山を通って日光の東照宮の直線上にある。これは家康の結界だ。日本は、こうした様々な結界で守られているんだ」

 なるほど。壁を作って閉じ込めるのではなく、大きな力の中で閉じ込めるやり方もあるのか。確かに笠間神社だって壁で覆われていないスカスカな空間が多い。それでも結界が作れているのだ。考えて見ればすごいことだ。

「さて、前置きが長くなった。では、崇徳天皇以外に思い浮かぶ人物はいるか?」

「天皇家ですよね…うーん、特に思い浮かばないです」

「ふむ。では、天皇家に関係する神社で大きなところと言えばどこかな?」

「え?伊勢神宮とかですか」

「そう。あそこも巨大な怨霊を閉じ込めている場所だ。怨霊の名は天照大神。史上最強の怨霊だ。伊勢神宮は、彼の地に巨大な結界を張り、天照大神の怨霊が決して神宮から出てこないようにしている」

「そ、そうなのですか…」

「ああ。あそこは結界を護る人間も多いので、怪異たちもそう簡単に攻撃はできない。それに、余りに強力過ぎて、天照大神の怨霊を出すと日本が半壊する。だから、『犬』も天照大神を復活させようとは思わないだろう。同じように白峯神宮に祀られている崇徳天皇も復活させ辛い」


 源信さんも言っていたが、天皇家の氏神が祟り神で大怨霊とはどういう事なのか?


 僕の疑問を解決する事なくリリィは話しを続ける。

「しかし、私の関わっている怨霊は天照大神ではない。悠久の歴史の中では最近の話しになるが、天皇家に関わるかなり大きな怨霊がいる」

「それを誰か言えばいいんですね」


 しばらく考えたものの、僕にはさっぱり思い浮かばない。近代においてそこまで大きな怨霊になった皇族がいるのであろうか?


「さっき、私は巨大な怨霊のいるところは、広く大きな場所が比較的多いと言った。そんな場所がたくさんあるはずもない。では言い方を変えよう。基本的に天皇家が祀られている神社は『宮』と付く。今は『宮』が取れているがかつては『宮』が付いてる神社もあるが、それは除外してくれ」


 除外するも何もそんな神社がいくつあるのか、そして、どこにあるのかも僕は全く分からない。まあ、とりあえず『宮』だ。


 ええと…思い浮かぶのは…


「あ、日光東照宮」

「そこと太宰府天満宮は天皇家ではないので例外だ。しかし、それ以外の『宮』の付く神社に祀られている皇族たちの殆どは怨霊であると言ってもいい」

「れ。例外…」

 例外まであるのか…なかなか難しい。それにしても『宮』で祀られている皇族のほとんどが怨霊?

 すると、僕の頭にパッとある神社が浮かんだ。

「あ、橿原神宮!!」

「いや、あれは明治時代に造られたところなので…そして、あそこに怨霊はいない」

 リリィは口をタコのようにして言う。

 僕があまりに明後日のことばかり言うので、リリィがイラっとしているように見える。


「そうだな…東京に大きいのがあるだろ」


「え?東京に??」

 東京にそんな大きな神社があったっけ?

 僕は真剣に考えた。あっ!と思う。そういえばあるにはあった。面積も広いし『宮』も付く。しかし、あそこは東京のど真ん中すぎる。あんなところに怨霊がいるとはとても思えない。

 でも、他に思いつかない。


「め、明治神宮」


 すると、リリィは僕をじっと見て、「正解」と言った。


 そして、話しは続く。

「明治神宮は創建こそ大正時代だが、中の造りを見て分かるように怨霊を封じる造りになっている。時の政府の内務省の中に明治神宮造営局が設置されたことからも、怨霊を封じる仕掛けをかなり綿密に計算して造ったことが分かる」

「なぜ、政府がそんなことをしたのですか?」

「タメ口でいいと、あれほど…」

 リリィに睨まれた。可愛いけど怖い。

「ええと、何で政府がそんなことを?」

「詳しくは言えないが、当時の明治政府は明治天皇に対して相当な不敬を働いた。その恨みは凄まじく、陛下の崩御後、怨霊化することを恐れた政府は、渋沢栄一などに出資させてこの施設の完成を急いだ。太平洋戦争が始まり、本殿が戦火で焼けた時は、怨霊が外に出てしまい、東京が半壊してしまった。下町エリアはアメリカ軍の焼夷弾に焼かれたが、都心部は怨霊によってかなりの部分をやられたという話しだ」

 まさか、東京にすでに被害が出ていたとは思わなかった。

「その時、焼夷弾から逃れるために御神体が宝物殿に移されたのだ。しかし、これがまずかった。余りに慌てて移動させたために結界が緩くなってしまったのだ。そして、歴史に決して語られることのない戦いが起こった」


 余りに凄い話に、作り話を聞いている気分になる。


 リリィは、唾を飲み込んで、大きく息を吸った。


「じゃ、ここから本番ね」

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