第4話 彼の名は

 カウンターの方で、彼らが話す声が途切れ途切れにだが聞こえてくる。

 どうも、報酬の話をしているらしい。

 前回、見つけた船から回収した何かを買い取りを依頼して、そのポッドがどうとかも言っている。

 もしかすると、自分の事を話しているんではないだろうか。

 びっくりすればいいのか、どうか。

 まさかこんなに早く会えるとは思っていなかったから、お礼は言うべきか。

 チラリと様子を見ると、値段の交渉だろうかまだしばらくは掛かりそうである。

 やっぱり受付の人の手が空いた時に相談して決めよう。

 傭兵が購入出来る船を探してみるかなぁと、多目的結晶エーテルドライブで検索をかけてみる。

 小難しい話は正直に言ってよく解っていない部分もあるが、これはすごいものだな。

 身体の中を流れるナノマシンを伝って電気信号が多目的結晶エーテルドライブへと伝わり、網膜へと直接情報が流れ込んでくる。

 頭で考えるとそういう風になるのだ。

 目の前に目立つ蛍光色で彩られた広告と共に、オススメの船はこれだ!とか、特価幾らだとか出てきて疲れそうだ。 船の値段がピンキリあるのはわかった。

 武装だったり、輸送スペースがあったりとワクワクするのだがそれ以上に自分の心を掴んでしまう存在はそれだけでは無かった。

 この人型機動兵器と呼ばれる存在だ。

 戦闘機や、戦車といったものもある様だがその中でも兎に角目を引いた。

 カッコ良すぎる。 傭兵によってはカスタマイズして自分だけの機体を組んでいる者もいるらしい。

 動画サイトも見つけて早速そのアプリも入れてみた。

 機動兵器を駆る姿といい、宙賊と呼ばれる無法者を退治する動画があったりする。

 ツインアイや一つ目のモノアイの機体、脚が無くブースターになっていて速さを追求する機体もあれば重装甲で敵の攻撃を防いで盾の様に仲間を守る機体もあった。

 白兵戦、中遠距離線、電子戦仕様なども有りかなり種類も多いようだ。

 いくつか紹介はあるがトライデント広報と言うところが見やすいかな。

 船がダメなら、こういった物を手に入れられるようにするか。


 【傭兵登録初回に限り、トライデント社契約によるローン】

 【中古でもローン対象】

 【支払いはトライデントPMCs 実働部隊依頼を受ける事で支払いを行えます】

 【トライデントヒノモトステーション支部】


 怪しい、すごく怪しい。

 しかし、医務室を出る時に言われた救助費用や治療費の支払いもある。

 今すぐに払う必要はない、とは言われているがこういったものは早く支払いを終わらせてしまいたいものだ。

 うーむ、金策をどうするかと悩んでいると、ふと画面が更新されて新たな動画がオススメの中に出てきた。

 今まで見てきたものと少し雰囲気が違っている気がする。


 【宇宙怪獣】

 【これから映し出される映像は】

 【心身に悪影響を及ぼす場合がございます】

 【不調をきたしましたら、最寄りのメンタルヘルスへご相談下さい】

 【それでも視聴しますか?】

 【YES / NO】


 自分で唾を飲み込んだのがはっきりと分かる。 宇宙怪獣なんて言葉に聞き覚えは無いはずだ。

 しかし、この何か怖いという以外の感情が自分の中にあるのが分かる。

 この先を見たい気持ちと怖い気持ちで少し気分が悪くなってきた。


 「おい、あんた。 名前は?」


 いつの間にか話が終わったのか、先ほどの男が自分の側へと戻ってきていた。

 二十代くらいの無精髭を生やし引き締まった身体と作業服の様な服を着ている。

 人懐っこい笑顔は、誰からも好かれそうな好印象を受けた。

 慌てて先ほどの画面を見直すが、【宇宙怪獣】の動画は見当たらなくなっていて、また新しい別の人型機動兵器の紹介が流れていた。

 なんでも無かったのかと、深呼吸して落ち着こうとする。


 「なんだ、大丈夫か? すごい汗だぞ」

 「あ、いえ。 大丈夫です」


 動画アプリを一旦終了させる。

 今すぐに見たいという感情と、見てしまえばもう元には戻れないのではないかと言う感情で不思議な気持ちになっていた。

 今はもう動画がどこに行ったのかまた見れるのか分からないが記憶を失う前の自分は一体、何者なんだろうか。


 「さっき、おやっさんから聞いたんだが今登録したらしいな」

 「はい、そうです」

 「名前は?」

 「イナトです」

 「やっぱりそうだったか! 気になっていたからさっきドクターのところに言ってね」


 君の事を聞いたんだ、と言ってまた笑う。

 やはり自分の収用されていた救命ポッドを回収してくれたのはこの男だった。

 名前は、【ブラックバーン】と言うらしい。

 傭兵ランクは一頭宙尉とかなり高い方らしいのだが、別にそれを鼻に掛けて威張っている様には見えなかった。

 治療してくれたドクターのところへと寄った際に、自分の事を聞いた事。

 記憶も無いが、施設にずっと置いておくわけにも行かない。

 治療も終わっているのだから、出ていってもらわなければ次の患者の対応が出来なくなる。

 傭兵になれば、身分証明にも使えるし賃金の発生する仕事も受ける事が出来るからとここを案内したもののどうするか考えていたそうだ。


 「ところで、イナト君と言ったな。 どうだろう、もう一度病院船へと一度戻ろうと思うんだが」

 「えっ?」

 「正直に言えば、君を救助した際に状況が判らなかったんだ」


 要救助者を発見した際は、生命維持装置の確認をし作動している場合は要救助者を保護し救出する必要があるのだそうだ。

 これを破ると、多目的結晶エーテルドライブで記録され傭兵協会へと報告が上がる。

 状況等も鑑みられるのだが、悪質な場合は傭兵の身分を剥奪し逮捕投獄される事も有るのだそうだ。

 彼らのチームが病院船へと侵入した場所からすぐ医療ポッドのある処置エリアだったらしくすぐに自分の事を発見した為、病院船へ索敵ピンを設置してヒノモトステーションへと引き返し、自分は医者へ。

 その際に必要の無くなった医療ポッドは傭兵であるブラックバーンの回収品として適正な価格で買い取ってもらえたそうだ。

 トライデントという企業が、医療ポッドの買取をしたそうでそこそこの値段になった事で、他にも良い物を回収出来るのではないかと考えている。

 そこで、その病院船から発見された自分がいればもっと良い物を見つける事が出来るのではないかと言う。


 「どうだろうか? うまくいけばある程度ではあるが報酬は出せるし今君も仕事が無くて困っているだろう?」

 「自分は、ご存知だと思いますが記憶喪失らしいんです。 お役に立てるかどうか」

 「もちろん、イナト君の記憶の事も聞いているとも。 もしかすると思い出せるかもしれないし、そうじゃなくても色々と見つかれば人手は必要だと思ってね」


 悪い話では無いのかもしれない。

 もうすぐで彼も出発するらしいし、このままこの提案に乗ってみるのも良いのかもしれない。


 「それじゃあ、お言葉に甘えて。 ぜひ宜しくよろしくお願いします」

 「おっ、ダメ元だったがこちらこそ助かるよ。 よろしくな」

 「はい! あ、あと、ありがとうございま」


 言い忘れないうちにお礼を伝える。

 ブラックバーンはと言うと、驚いた顔をしているがニヤッと笑って「面白いやつだな」と言った。


 「おやっさん! 彼も連れて行くわ」

 「おめえさんの事だからな。 心配はしてないが、また行くんだろう?気をつけて行け」


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る