第2話 退院と言われても
おはよう、と起こされる。 時間はどれだけ経ったのだろうか。
医者が言うには、あれから数時間は寝ていたらしい。
先ほどのお姉さんは、見当たらない。
あ、いた。 でも、なんであんな離れた所にいるのだろう。
「どうだね、何か覚えていることはあるかね?」
自分はそもそも誰なのだろうか。 はっきりと思い出せない。
なぜここに居て、医者の世話になっているのかも分からない。
先ほど起きた時より、意識はしっかりとしていて周りもよく見えるし、医者が言う言葉は伝わっている。 声も問題無く話せていると思うのだが、自分が話している言葉は相手に伝わっているのだろうか。
そうと伝えると、「ナノマシンもしっかり作用しているようだ」と独り言のように言いながら、手元を操作するかのように動かしている。
ナノマシンと言っていたがどういう事だろうか。
不思議に思っている事が伝わったのか、色々と説明してくれた。
「君が救出されたのは、記録の殆どが残っていない病院船の残骸の中からだ」
ブリッジや、主要な船体部分は破壊されていたが自分が居た区画は予備電源が残っていたからか医療ポッドが生きておりそこにいたのが自分だという。
名前や、なぜその状況だったのかは全く記録が残っていないのも、その医療ポッドを維持する為にソースを割いており長い年月の中で消え去ってしまったのだろうとの事だった。
医療ポッドには、【1710】という番号が唯一大きく残っていたそうである。
名前も思い出せないのかと聞かれたが、やはり何も出てこない。
ゆっくりでも思い出され場良いがね。と言って、【1710】を語呂合わせで呼ぶ事にした。
イナト、それが自分の名前になったのだ。 悩んでも仕方ないし、思い出せば名前を変更すればいいよと言われて納得した。
「さて、後はだね。 君を救出したのは正確には我々ではないのだよ」
運よく、デブリ宙域で漂流している古い病院船を傭兵のチームが発見。
何か使えるもの、正確に言ってしまえば金目の物があるかもしれない状況だった。
しかし、高く売れそうな医療ポッドを見つけても中には人がいた。
傭兵の行動は記録されており、見捨てて行く事が出来ない為にこの施設へと運び込まれたのだそうだ。
この場所は、医療室ではあるが病院のような大きな施設ではないらしくいつまでも自分を置いておく事は出来ない。
また、医療ポッド内で生命維持はされていたが現在の医療基準にする必要があった。
今、自分の身体にはナノマシンが組み込まれ少しの負傷や病気は簡単に治癒されてしまう。
大きな損傷や欠損だと、こういった施設で治療しなければならないそうだ。
左手を見るように言われると、手首のところに赤い結晶の様なものが埋め込まれている。
記憶が無いが、こんなものは元々は無かったはず。
これ自体は、
医療ポッドから出す際に、未知の病原菌を持っていてこのステーション内で感染爆発を起こさないようにする為にナノマシンを注入し、
「意識の無い君に確認する事も出来ない。 緊急だったのでね、事後承諾になるが」
少し、言いづらそうにすると
どうも、自分だけに見えるように空間にアプリが映し出されているようでメールアプリがダウンロードされているようだ。他に何も無い様である。
生まれてすぐに行われる作業だったのだが、結果として成長した身体にする事で高額な料金も発生しているという。
目覚めてすぐにいきなり借金が出来てしまったのだった。
「ここは、辺境宙域と呼ばれているヒノモトの中央ステーションだ。 今の君は身分を証明する事も出来ない為、働き口も限られているんだが……」
そう言って、
転送してもらったそれを開くと、【傭兵募集中】と言う案内が出ている。
身分の持っていない人間が働き口を手に入れる為には市民権、純市民権を手に入れなければならない。
しかし、身分が無いから市民権を手にする事が出来ないという。
一定のお金を収めれば、準市民権を手に入れる事が出来るがそのお金を稼ぐにも簡単では無いらしい。
何か技能がある、後ろ盾がある、特別な事がない限り簡単ではないと教えてくれる。 身一つではさらに限られている。
しかも、自分には借金がある。 命を助けてもらったのだから文句はないが安い値段では無い。
なんだか、うまく傭兵になる様に誘導されているような気もしないが。
今の自分には限られた選択肢しかなさそうだ。 やってみるしかない、よなぁ。
結局、やれることをまずやってみてほしい。 純市民権を手に入れれば傭兵を辞めて別の仕事を探すという道もあると言われて了承するしか無かった。
あれよあれよという間に、退院する手続きが済み部屋を追い出されてしまった。
なぜか、ナースさんがニコニコとしてついて来ているのだがちゃんと傭兵登録するかどうか見張っているのだろう。
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