潔癖すぎるらしい

ホウは、ゴミ箱にコップを捨てて戻ってきた。


「アーキー、僕ね」


「うん」


「みんなより、潔癖すぎるらしいんだ」


「そうか……。でも、他にも沢山いるだろ?」


俺の言葉にホウは首を横に振った。


「いないのか?」


「うん。僕みたいに、全てに潔癖な存在はいないらしい。多分、僕はあっちがよかったのかも」


「黒の方か?」


「うん」


そう言って、ホウは何かわからないスプレーを布団に振りかけている。


「使う?いい匂いで、眠りやすいよ」


そう言って、俺にもそれを貸してくれる。


確かにいい匂いだ。


俺も、シュッシュッとした。


ホウに返すとホウはまたアルコールスプレーで拭いている。


何だか慣れてきた。


「ごめんね。嫌だよね」


「いや、別に。何か大変だな」


「そうかな?」


「うん。一回、一回。アルコールスプレーするの」


「習慣だから、気にした事なかった」


ホウは、そう言ってティッシュで丁寧に拭いている。


「これって何?」


「あーー。それはね、ミモリの花を抽出したスプレーなんだよ」


そう言うとホウは、また検索機にかけている。


「凄い、凄い」


どうやら、興奮しているようだ。


「何?」


「ラベンダーって言うんだって!アーキーの住む世界では……」


「ラベンダーか……」


「凄いね!こんな色してるんだ。見た事ないよ」


「花って色ついてないの?」


「ついてないよ」


「そうなのか……。じゃあ、ミモリも白なんだな」


「白だね」


ホウは、悲しそうな顔をする。


「色鮮やかな世界に行ってみたい」


「退屈か、この国……」


「退屈とかじゃないんだ。ただ、綺麗にしなきゃ、綺麗にしなきゃって思っちゃうんだよ。白を汚さないようにって思っちゃうんだよ」


ホウは、ポロポロと泣き出している。


「それって、本当はホウは綺麗じゃなくていいって事か?」


「違うよ。そうじゃない。ただ、今みたいに毎日毎日絶対に綺麗にしなきゃいけないって思うのは、時々しんどかったりするんだよね。でもさ、死んじゃうのは嫌だからね。仕方ないよね」


「そうだな」


そうだ!この世界は、掃除をしなくちゃ死ぬんだ。


「色がついたら、ちょっとは楽しめたりするのかなーー?って思ったりしてるんだよ」


「色がついたら、気分的に変わるかもな」


「そうだよね!あっ、明日も早いから、寝よう」


「そうだな、おやすみ」


「おやすみ」


俺は、マトメーを習得しなくちゃいけないよな!


ホウの為にも……。


この世界の皆の為にも……。



ミモリの花の香りは、俺をすぐに深い眠りに誘ってくれた。


朝まで、一度も起きる事なく俺は眠った。

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