目覚めても変わらない世界

ぐっすり眠れたから、もしかしたら戻っているかと思ったけれど……。


結局、戻ってはいなかった。


相変わらずの真っ白い空間。


「おはよう、アーキー」


「おはよう、ホウ」


違うのは、仲間ってやつが出来た事。


ずっと、孤独だったのをここに来て初めて気づいた。


「頑張ってね!今日も」


「うん、頑張るよ」


ホウと一緒に、食堂に行ってから教室に入る。


今日も、また【マトメー】を習得しなくちゃならない。


「マトメー」


小さな声で言うと目の前に置かれた紙が、机のすみに纏まるのだ。


幼稚園児達は、昨日よりも明らかにうまくなっている。


「マトメー」


何故か、俺の紙は纏まる事をしない。


「アーキー君、マトメーを使う為には想像して下さい。片付いた状態ですよ」


クリーン先生は、小さな声でマトメーと言ってから俺を見つめる。


「アーキー君、この状態です。わかりますか?」


「はい」


「では、もう一度」


クリーン先生は、サァーーと紙、散らかした。


「マトメー」


ザザッ……


バサッ……


紙は一旦ちゅうに浮いたのに、元通りに散らかった。


「最悪……」


「アーキー君、想像力が足りないですよ!綺麗な部屋を想像して下さいね!もう一度」


「はい!」


俺は、想像する。


綺麗な状態……


綺麗な部屋……


綺麗な…………


「マトメー」


ザザッ……


バサッ……


綺麗な部屋なんか想像できなかった。


想像したら、あの部屋が浮かんできただけだった。


床の物を踏まないのに慣れた生活。


ゴソゴソと飲み物を掘り出して飲む生活。


生ゴミだけは、仕方ないからゴミに出す生活。


「アーキー君に必要なのは、想像力です」


クリーン先生は、俺を見て話す。


「出来れば、毎日練習して下さい。想像をして、マトメーと言うのです」


俺は、クリーン先生を見つめている。


「ただし、マトメーは小さく言いましょうね!出来たら、お風呂場が好ましいです。防音されていますから、大きな声で叫んでもお風呂場以外は汚れませんからね」


クリーン先生は、ニコニコ笑いながら話してくれた。


そうか!


だったら、昨日みたいな事にはならないって事だよな!


「アーキー君、魔法というのは簡単に出来るものじゃないんですよ!魔法というのは、想像する力が生み出すのです。綺麗な部屋を想像して、マトメーと言わなければマトメーは使えません。それを忘れないで下さいね」


「はい」


チャイムが鳴り響いた。


「では、今日の授業はこれで終わります。マトメーを習得した皆さん、明日は実技になります。合格したものから、順に次の魔法の教室に向かいます」


『はーーい』


俺は、卒業出来る気がしない。


「アーキー君、お風呂場で練習ですよ!頑張って下さい」


「はい」


クリーン先生は、ニコニコ笑いながら教室から出て行った。


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