死にます

「掃除機の話しは、もういいよ!ってか、掃除機なんかもう全然使ってないし…」


「えっ?」


パーンは、汚いものを見る目で俺を見つめる。


「何だよ」


「あのー、失礼ですが掃除は?」


「あー、五年ぐらいしてないかなーー」


「ご、ご、五年って!よく生きてましたね」


パーンは、驚いた顔をしながら俺にそう言った。


「掃除なんかしなくたって、死なないからなーー」


「えっ?」


「えっ?じゃないから……。死なないから」


パーンは、その言葉に「死にます」と小さな声で呟いた。


「は?」


「あなたがいた場所では、死ななかったかもしれませんが……。ここでは、死にます」


「いやいや、どういう事?」


意味がわからなくて、俺はパーンを見つめる。


「この国では、朝、晩の掃き掃除と拭き掃除を行わなければ、24時間以内に死にます」


「はあーーーーーー」


俺の声に、パーンは両手で耳を塞いでいた。


「死ぬって何だよ、死ぬって」


「ここは、掃除の国でして……。先ほど、お話ししましたけれど色がないんです」


「聞いた」


「我々、生物以外の色はホコリや病原菌なんです。あっ、あなたの世界でもカビはいろんな色をしていたのですね。こっちでも、同じなんです。ただ、あなたの世界と違うのは……」


そう言うとパーンは、ポシェットから小瓶を取り出した。


「このクローが、ヤバイんですよ」


そう言って見せてきた小瓶の中には、黒くて小さいのがいる。


「生きてるのか?」


「あー、はい。生きてます。あ、あなたが言ってた異世界の魔物的な奴ですね」


そう言って、パーンは笑った。よくわかんないけど、クローと言う生物はよく見ると顔もあるし、足なのか手なのかは数えきれない程ついている。


「この手足を伸ばしていって大きな物体になるんです。えっと……。あなたの世界の雲みたいな感じだと思っていただければいいと思います」


「クローが増殖するのはわかったけど、何で死ぬんだ?」


「あー、部屋中に増殖したクローが最後に飲み込むのが生物なんです」


「へーー。それで、24時間以内に死ぬってわけか……」


「はい。あっ、それだけじゃないです」


そう言って、パーンはポシェットに小瓶を閉まっていた。


「アオーという青色の雨が降るんですが……」


「ああ」


「それが、残念な事に家に入ってくるんですよ。で、家に入ってきたアオーを処理するのに拭き掃除が必要なんです。それを怠ると寿命が一年減ります」


「は?」


「アオーは、寿命を削る魔物です」


そう言って、パーンはポシェットをがさごそと漁っている。

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