第8話
千歳と宙斗が僕のいる公園に来たのは、日が落ちた後だった。
「他にしたいことが、買い食いって、何だよ」
「え~、だって一回やってみたかったんだもん」
二人の手には、コンビニの袋が握られていた。
「あの桜の木の下で食べよ~」
「桜って、どこにあんだよ?」
あの桜の木とは、どうやら僕のことらしい。
「ほら、あの木だよ。今は花が咲いてないから、分かんないかもしれないけど、春になったら、すごく綺麗な花を咲かすんだよ」
すごく綺麗な花と言われると、少し照れてしまう。
「へえ、そうなんだ」
二人は僕の根元に腰掛けた。二人の背中が僕に当たる。
「わあ、美味しいね~、この肉まん」
「夏なのに、よく肉まんなんて食うな……。熱いだろ」
「うん、熱いけど、美味しいよ。……私、いつも病院食だから、こういうの初めて食べた」
「……じゃあ、しっかり味わって食えよ」
「うん」
千歳が二つ目の肉まんを大切そうに頬張る。
「なあ、またいつか一緒にどこかに行こうな。まだたくさん、行きたい所あるだろ?」
「うん。……ねえ、今度はここでこの桜が咲く四月に、お花見をしたいな」
「四月って、けっこう先だな」
「だって、そう頻繁には病院を抜け出せないもの」
千歳が少し寂しそうな笑みを見せる。
「……だったらさ、来年までに元気になって退院して、お花見をしよう! その後もいろいろな所に遊びに行こう!」
「……そうなるといいね」
……本当にそうなってほしい。
千歳が早く元気になればいい。
「でも、今頃はもう桂先生に、私が病院抜け出したことバレてるよね」
「……そうだな。ガッキーたちもずっと誤魔化してることなんて出来ないだろうしな」
「あ~、桂先生に怒られる~」
「えっ、あの人、怒るの?」
「怒ると怖いって、看護婦さんたちが言ってたよ」
「そうなのか。……でも、怒られることを気にしていたら、青春は楽しめないぜ。青春は冒険だ!」
「……何それ」
「アドベンチャーだよ、アドベンチャー。青春イズ、アドベンチャー」
「……宙斗って、たまに変なこと言うよね」
「変なことって何だよ。俺は真面目に言ってるんだぞ」
「真面目にバカなんだ……」
「バカって言うな!」
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