天は見ている。
DokiDokiアーモンド
第1話
天は見ている。
草原の草木が揺れる。それは風によって発生した現象。
至る場所でサアサアと揺れている。それを見下ろすように太陽が見ている。
サンサンと照らされた太陽が世界を照らす。らんらんと輝く太陽が沙漠をコンクリートをそして大地を照らし闇を減らす。
夜が訪れ闇が覆う。太陽が昇り世界を照らす。
この単純なサイクルが世界の摂理を回していく。
サラサラと砂が舞い、それは近くの花を掠め少し遠くへ旅をする。
ざあざあと波音をたてて水が流れる。
それは川と呼ばれたもの山のどこからか流れ、そうして広大な水の集積場「海」へと流れ着く。
そして太陽に照らされた海の表面が少しだけ軽くなって雲になり、そうして山へと下りていく。
「学校」と呼ばれたかつての文明が築いた施設で学んだとされる研究の成果。
この世界にあまねく摂理を科学という結果で終わらせた文明の残した知恵。
けれど決してそれが果たされることはないだろう。
木々が生い茂り、この星の産声を今か今かと待っている。
決して訪れることのない物語を太陽も月もそして地球さえも待っている。
「次の時代はいつ来るのかな」
「もうこないんじゃないか?」
太陽と月は話し合う。それは言葉ではなくそれは知恵ではなく。
それは純然たる事象によって疎通を繰り返す。
かつての文明の痕跡は跡形もなく消え去り、「車」と呼ばれた鋼鉄は今や草木がその輪郭を再現しているに過ぎない。
発展した文明は脆かった。大気を操る機構も温度を調節する施設も。それを物体として出力したとき、その事象にかかる負担を考慮していなかった。
だから文明は滅んだ。それはもうあっけなく。圧倒的な熱量とエネルギーという物理現象としてそれは瞬く間にこの星を焼き尽くしかつての文明もこの星に住まうものさえも消し去って見せた。
まさに「マジック」の様だと言える。
花や草木は知っている。太陽だって知っている。
この文明の終わりもこの文化の終わりも、どういった文明と都市を築いたのかを。
けれどそれはこの星にとってどうでもいい事実でしかない。
星は待てばまた生まれると思っている。
躍動をまたこの星に起こしてくれると思っている。
それは純然たる事実だろう。それは確定した事象だろう。
けれどそれはいくつ太陽が昇った時かそれはいくつ夜が訪れた時だろうか。
わからない。それを知りえるものはいないのだから。この星に新たな産声を上げるときなど果たしていくつ先のことなのかも。
紅の空が嗤っている。虹色の川が泣いている。
筆舌しがたい色の海が喚いている。銀色の雲が落下している。
それらをかつての文明はこう呼ぶだろう。「地獄」と。
けれどそれらを知る文明はいない。それらを知覚する能動的な存在はいない。
それらは一度の過ちで姿を消してしまったのだから。
それらは重度なる罪で裁かれたのだから。
この星は知らない。
変形した植物も、あらゆるものを焼いた太陽もそれらを駆除した隕石も。
星は知らない。
嗤う木々も鮮血のように舞う桜も。
風はあらゆる存在を攫い、まっさらな世界を構築する。
今や砂漠は白い都となった。
今や草原は紅と紫のちょっとした芸術になった。
花が生い茂る。それは花畑だろう。
可憐なる花々は太陽を哂いかつての文明を再現しようとなりそこないの歪みを誘発する。
山が並ぶ。それは絢爛豪華なる鉱石の山々だろう。
何もかもが手遅れになったこの星でかつての文明がはがしてしまった山々が骸となって立ち並ぶ。
ざぁざぁと流れる川は極彩色に彩られ、隣接する地面を汚していく。
いずれ川は大地を浸食し陸地の一部を食い荒らすだろう。
筆舌しがたい色が広がる。それはかつての文明が「海」とよんだ水の集積場。
何かを再現するようにそれは何かが遺した記録のように喧噪と硝煙を漂わせる。
木々を見下ろしそれを潰すのは雲だ。
理性的に嫌悪感すら抱く形状を繰り返すソレはかつて「雲」と呼ばれていたそうな。
銀色の光沢を保ちそれでいながら不定形の変形を繰り替えすそれは何の前触れもなく質量を持って落下する。
光を齎した太陽は大地の一部を焼き、かつての硝煙を持続させ、文明の痕跡を影という形でこの星に記録していく。
太陽が嗤っている。
天が、見ている。
天は見ている。 DokiDokiアーモンド @Hosinonia
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