学園生活と相棒との邂逅

第11話

 火の月15日。まだ鶏も鳴いていない頃から、アルトの朝は始まっている。


 ベッドから目覚めたアルトは支度を整え、持ってきた木剣を持って宿の裏庭へ向かう。


 魔獣の森で行っていた木剣の振り回しは朝の早朝に変更されて、夜にはその場での筋トレになった。(ただし、ロキクズを思い出しベッドに八つ当たりする事は変わっていない。)


 視線を目の前に向けて、集中する。対人するのは試験の時に向き合った少女を浮かべる。相変わらずの強さを実体でもないのに肌身で感じる事に苦笑しながら、木剣を


 どちらが合図を求めることもなく同時に走り出し斬りかかれば、自分の首が跳ねるのを感じる。その事を理解し集中を辞める。


「………強すぎでしょ…」


 自分で作り出しただけでも負けているのだ。あの時よく彼女からあれだけ逃げ切ったなと今になっても思う。

 その日はそれ以上架空とは戦わない。以降はずっと木剣を振り続ける。それを繰り返しているといつの間にか時間になっていた。

 裏手にある井戸で汗を拭き、支度を整える。少し大きめで自分に合っていない制服を上から被る。制服の胸元には学園のシンボルマークが縫われている。


「おじさん、行ってきます!」

「あいよ」


 宿屋の主人のおじさんと何時もの挨拶をして宿から出た。まだ時間は朝の8時なのに昼間と変わらない程賑わっている。アルトは人にぶつからないように間をすりぬけ学園へ向かう。その足取りは軽い。


その理由は通知を受け取った時にあった。


 合格通知を受け取ったとき、心の底から喜んだアルトだったが手紙の中には通知書以外にももう1枚手紙があった。開いて中を確認したアルトは後悔した。


『試験お疲れ様でした………これは私からのプレゼントです。受け取ってくださいね?』


 つまりこの合格通知は賄賂ってことらしい。じゃなきゃ入れる必要がないと考えたアルトは喜んでいた自分が馬鹿らしくなった。そのままベッドに倒れ込み……からだを起こした。


「ま、いいか。」


 賄賂であれなんであれ合格は合格だ。合格出来なかった人達には悪いが、全力で楽しもうと思ったのが前の話。


 今は新しい出会いにワクワクである。


「は、離してください!」

「うるさい、俺に従えよお前!」


 沢山の人混みの中心で叫ぶ2人に眉間を寄せるアルト。人混みに紛れ遠くから眺めれば叫んでいた2人は少し小太りの少年と自分よりも背が低い可憐な少女だった。


『あいつ、ラストン男爵だよな?あの親が貿易で活躍している…』

『そうそう、親の方はいい評判聞いているけど子供の方はいい評判を聞かないな…』

『親の力使って好き勝手しているんでしょ?そんな奴に目をつけられた平民の少女は可哀想ね……』

(…………ふぅん)


 つまり、あのラストン何とかって奴は少女を公共の場で口説いていて、親の権力を使って断られないようにしてるという事ね……━━━くだらねぇ。


『あ、おい! お前さん?』


 2人に向かって歩くアルトに止めようと周りの人達が呼びかけるがアルトは気にせず歩く。ポケットにある時計を触りながら2人に寄っていく。


「……何だ?貴様。図々しく私の前を通りやがって。」

「…………」


 改めて、その男を見る。……思ったのは普通の青年を4で割った感じだな。鏡で自分の顔を見た事あるけど、自分よりもこいつブサイクじゃね?…自分目線だけど。


「…………ふっ」

「お前、なんなんだ?いきなり現れては人の顔を見て笑ってきて。」


 自分よりもブサイクな顔(自分目線)をしている奴に上から偉そうにしていると考えてしまうと笑いが漏れてしまった。それだけである。


「そうこれは決して自分と同じぐらいの歳のやつが『自分は偉い!お前よりも偉い!だから従うのは当然なんだ!』ってイキがってるのを思ってうっかり鼻で笑ってしまったというかダサいと思ってしまったというか」

「黙れ!」


 あらいやだ。ついうっかり。


「だいたいなんなんだよお前!いきなり笑られたと思えば馬鹿にしやがって!誰なんだよお前。」

「人」

「それは知ってるわ!」


 …………ノリツッコミいいな。

 もうちょっと馬鹿にしていたいが学校の入学式に遅れてしまうと思ったアルトは話を切り替える。


「まあまあ落ち着いてくださいな。地蔵さん」

「誰のせいだと思ってるんだ!あと私は地蔵では無い!」

「時間大丈夫ですかね?」


 自分が持ってきていた時計をポケットから取り出しラストン何とかの目の前で見せる。見せた時計には8と示されていた。


 ちなみに入学式には830に着いていないといけない。


「…………」

「…………」


「………………あ。」


 時間に余裕が無い事に気が付いたんだろう。顔が少し真っ青になっている。後ろにいる少女は頭を捻っている。


「貴族様がどうなのかは知りませんが、日の出を飾る入学式を遅刻すると言うのはどうかと思いますが如何でしょうか?」

「うぐぐぐぐ…………」


 うぐぐとか自分で言うやつ初めて見た……。


 暫し唸っていたラストンなんちゃらさんは踵を返す。


「すまない、私はここで失礼する!私が入学式を遅刻したなどあってはならぬのでな!」

「うんうん。じゃーね〜」


 学園に去って行くラストンなんちゃらを暫し見届けた後、手に持っていた時計の針を730にへと戻す。


 相手の意識が不安定や興奮している時についた嘘はバレにくい。その状態で嘘の時間を見せて勘違いさせた。


 相手は貴族で、自分でも時計を持っているだろうに確認せず慌てて走っていくところを見るに、簡単な仕掛けだったがちゃんと騙されてくれたようだ。


「あ、あの」


 貴族様と言うのは大変なんだな……と思いながら学園に向かって歩く。


「え、あの?」


 登校中は考える事も無い為、通りにある屋台を眺めつつ学園へ向かうのだった。










「え、ええ……?」



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最弱主人公は今を生きる。自由を手にする為、相棒の魂結人と今を生きる。 ミコト @17832006

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