第9話 入学試験2

 目が血走ってる人達(恐怖から幻覚が見えている)から逃げる事数分。幸いにも彼等は足はそこまで早くなかった為、逃げ切る事が出来た。中央では未だに大きな雷や炎、氷や風が渦巻いている。それ同時に舞い上がった砂ぼこりに紛れながらアルトはその様子を観察している。


(魔法について聞いてはいたけど……こんなにすごいとはきいてないよぉ…)


 本に書いてある内容と現物では違いがあり過ぎるのを今一度確認しながら上の方……いつの間にか出てきてたモニターを確認すれば『残り5分』と書かれている。あれが終了までのタイムリミットと言う事だろう。そこまで逃げ切れば多くポイントを貰える……はずだ。いつ魔法が飛んでくるか分からないアルトはオドオドしながら……


「ヨシ、そうと決まれば移動開始。ここの砂ぼこりも晴れてきたし、別の場所に…………」

「……………」


 考える時間が長すぎたせいだろうか?行動に移そうとした時には木の長剣を持った少女と目があってしまった。


 長く、白く透き通っている銀髪。住民10人に聞けば満員一致する程に整った顔。アルトから見れば折れてしまいそうな細い体。とても煌びやかな服装でも無いのに彼女に会いすぎるせいか、彼女専用の服と差し支えないほど似合っている。


 そんな彼女に見られていた事に驚き、何も喋れずにいたアルトが声を絞り出したのは数秒たった後だった。


「………………自分、見えてます?」

「うん」

「…………………………見逃してもらったりは…」

「…………」


 返答が無いということは………そう言うことなのだろう。少女の表情こそ変わってないが、申し訳なさが伝わってくる。故にアルトが取る選択肢もひとつしかない。戦略的撤退だ。


「ふっ!」

「ヒャア!?」


 危険を本能で感じ取り、たたらを踏みながらも後ろに下がったアルトが目にしたのは、空気を切る音が聞こえるほどの速さで木剣を振る彼女だった。


 振られた場所は自分の首辺り……後ろに下がっていなければ切られていた事を突きつけられ、アルトはその考え《戦略的撤退》を諦めた。


(彼女に挑むのは無謀……だと言って、背中を向けて逃走すれば即死まったまし。ならば!)


 時間いっぱい少女の攻撃を避け、タイムアップを狙う……これしか無い。元々勝てる見込み等は誰が相手でもなかったのだ、なら今できるベストをするしかないのだ。誰かの木剣を拾い、律儀に待ってくれていた白髪の少女に声をかける。


「………もういいの?」

「ええ、待って下さりありがとうございます。」

「そう………いくよ。」


 今、アルトと少女の戦いが幕を開けた。







 ・・・・・・







 side???



「(……………すごい。)」


 少女はとある公爵家の元で生まれた。

 若くから魔法を発動する事が出来るのを知った親や親族に期待される中、少女の心は無関心になっていった。


 どれだけすごい才能の持ちようでも、友達や親友といった気の許せる人が居なければ壁にぶつかってしまう。しかし、心を代償にした少女の成長は止まらなかった。


 少女が9歳になり大人達にも勝てるようになった頃には少女の心は閉ざしてしまった。以来少女は同級生に関心を向けることは無くなり、己をただ鍛え続けた。今、その閉ざされた扉に今変化が起きている。


「…………すごい」


 最初は申し訳ないと思っていた自分を恥じたい。


 木剣を首元に速く突き出せば最小限の動作で避けられる。横に速くなぎ払えば止められる。斜めに木剣を振り出せば避けられ、逆に木剣を突かれてまた距離を取られる。氷石を何発も放つが全て木剣で弾き飛ばされる。相手の攻撃が脅威では無いのだが、一度も攻撃を当てられないことに少女の関心はどんどん強くなっていく。


「凄い」


 少女のような存在をもつ同級生は貴族にはいない。誰も何かを失う程に努力することや、一度も諦めない毎日の訓練をしていない。そして、それをそれをしようという覚悟はぬるま湯に浸かる彼等には無い。それ故に孤独で仲間が居ない少女には目の前にいるアルトに関心が向いてしまうのも仕方の無い事だった。


「……本気…出してもいいかも?」


 そう思ってしまう程には。













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