第7話 自由が手からこぼれ落ちた日
闇の月31日。この日も変わらない1日になると思っていた。
「領主様がお呼びです。」
「……分かりました、直ぐに行きます。」
自分の仕事をこなしていれば同僚の使用人が自分が領主に呼ばれていると言う。
別になにか粗相を犯したつもりは無いが、呼ばれるという事はいつの間にかやらかしたのだろう。あいにく領主はきちんとした人なので、せいぜい怒られるくらいだ。
長引かなければいいな……と思いながら歩き、領主の部屋の前に着いたアルトはドアを叩く。
「領主様、アルトです。」
「来たか!……入りたまえ。」
「?失礼します。」
いつもよりもご機嫌な声に首をかしげながらもドア開けたアルトは目を見張った。
部屋にある物の配置が変わったわけじゃない。いつも掃除が行き届いている為にホコリひとつも無い。領主の様子もいつもよりもご機嫌なだけで然程変わりは無い。だけど
「おやおや、君がアルト君か!」
領主の向かいの席に座っているこの黒服の男。この男がこの空間、場、空気を支配している。自分の体が全力で恐怖している。男の微笑む表情に、思わず警戒してしまう。
「私の事は気になさらず、そこにあるイスに座りなさいな。」
「……分かりました。失礼させていただきます。」
警戒した事に気づいたのか、椅子に座らせようとしてくる男。その申し出にアルトは断ろうとしたが体が言うことを聞かずそのまま腰を下ろした。
「領主様、なんのお話でしょうか?」
「そうだったな……と言っても、用があるのは私ではなく、こっちの彼の方なのだけどね。2人で話したい内容らしいので、私はこれで席を外すよ。」
領主は席を立ち、部屋から離脱していく。直ぐに追いかけたかったが、体が動かない。領主がドアを開け、その姿を消した。
「さて、邪魔者は消えましたね。アルト君」
「なっ!うぐっ」
直後、謎の男に右手で掴まれ、その姿からは想像出来ない勢いで持ち上げられる。動くようになった両手で抵抗するが、鉄のように硬い右手を振り解けない。
「いきなりですが、貴方には学園に入ってもらいます。何故?とは言わないで下さいね。貴方に拒否権は無いのですから。」
「……が、学園?……ぐぅ!」
「自分で調べてください。貴方に話す義理はありませんので、そしてコレをつけてもらいます。」
そう言った黒服の男が取り出したのは何の変哲もない腕輪だった。しかし、黒で統一されているその腕輪は禍々しいオーラを出しているのをアルトは感じる。危険な匂いしか感じ無い!黒服の男がなんて事は無い様に言う。
「そう言えば、学園には決闘で実力を決めて、ランキングで表すらしいですね?」
「……し、知らねぇよ……」
「……そりゃ知るわけないか。学園の事も知ってないんだもんな?めんどくせぇ。」
知らない物は知らない。そう答えるしかないのだから。男の口調が変っている事に気づくが、それを言う余裕もない。
「まあええわ。この腕輪は隷魂の腕輪って言ってな、腕輪をつけているやつの条件を満たすと強制的に奴隷に出来るんだよ。コレをお前につけさしてもらう。ちなみに奴隷と言っても犯罪奴隷の方な。腕輪の事を第三者に告げても直ぐに奴隷になる様になっているがな。」
「………は、離せ、よ………」
「まあでもいきなり奴隷とか言われても困ると思うから、いい事を教えてやる。直ぐに奴隷になる訳しゃねぇ、その条件は学園の決闘で1度でも負けたらにしている。逆に負けなければいいんだよ。1度もな。優しいな!俺!」
うるせぇだったら最初から腕輪をつけるな!そう言いたくても、首を絞められているせいで上手く呼吸が出来ない。目の前が真っ暗になっていく。
「最初の試練として、学園に入学しろ。勿論これは決闘とするから、負けたら奴隷だからな?試験は火の月4日。別に教えなくても良かったが、最初から奴隷になるとかつまらないからな。」
体から力が抜けていく。目の前が何も見えなくなっていく。
「その腕輪はお前が負ければお前の首につき、お前は俺の物になる!……だからこそ、精々足掻けよ?出来損ないちゃん?」
その言葉を最後にアルトの意識は深く、闇の中に落ちていくのだった。
『………………………━━━━……遅くなっちまったが、約束は守る。だから━━━ゆっくりと休んでくれ。』
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「……………………は!」
アルトが目を覚ました後、回りを見渡す。そこは領主の部屋ではなく、自分の寝床でもある魔獣の森だった。ゆっくりと体を起こし、右手を見る。そこには黒で染まった腕輪が着いていた。左手で外せないか何度か試行錯誤するが、外れない。ここまで行動して、思わされる。黒服の男のようにしないといけないという事に。男の嘘かも知れないと一瞬考えたが、腕輪のことを考えれば、嘘ではないのだろう。
「…………………動かないと…」
そこからの日々は目まぐるしがった。火の月4日まで毎日仕事をこなしながらも学園を調べ、勉強の日々。どこから聞いたのかいつもよりも苛立ったように攻撃してくるロキ《クズ》と弟。逆に喜んで祝福してくれたシトラスお嬢様。自分が望んだことじゃないので罪悪感が酷かった。町の子供達はわかってなさそうだったが、喜んでくれた。他の人達にも報告したが、肉屋の主人とは話せなかった。
そして、入学試験の日を迎える。
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