第6話 命の重さは自分が1番軽い
アルトという少年はいつだって痛い目に遭ってきた。使用人になってしまった事で毎日領主の兄と弟に痛めつけられる日々。使えている領主の家には仕事仲間となるはずの人達にも敵になる始末。休む場所も追い出され、毎日危険な魔獣の森で怯える日々だった。
そんな日々が続けは精神がすり減り、感覚がおかしくなっていく。痛みがあった出来事は次第に消え、辛かった事も次第に感じ無くなる。しかしその感覚は今の状況に当てはまらない。
「(死にたくない……)」
今のアルトは今までで感じたことの無い程の恐怖を感じている。あまりの恐怖に叫び、敵に背を向け逃げ出そうとしていただろう。実際にそうなっていないのは名前も知らない彼女のお陰だろう。男達もビビらないアルトを伺って動かない。
その状態で何分過ぎたのだろう?男達に向けて構えていた腕が痛みで下ろし掛けた頃……女神はこちらへ微笑んだ。彼女がお願いした魂結人がこちらに走ってきているのを視界の端で見つけたアルトは助けが来た事に気づく。そうなれば話は早い。助けがきたであろう方向に向かって走り、逃げるだけだから。そこまで考えれば思考は冷静になっていく。怖がっている彼女の手を握り、少しづつ後ろへ下がる。
「に、にがしてくれないのかよ……」
「あ?」
「だ、だから、逃がしてくれないのかよ!」
怯えるように……男達にとって自分は脅威にならないと認識させるように喋れば、殺意が少なくなった。相手が油断してきた事にアルトは内心でほくそ笑んだ。
「逃がすわけねぇだろ?お前を殺して、後ろの女を攫わなけりゃ行けないからな。」
「という訳で、楽に殺してやるからよ…そこ動くなよ?」
「…………そう、か……よ!」
右足で地面を蹴り上げ、砂を男に飛ばしたままもう1人に向けて手に持っている木剣を投げつける。そして彼女の手を引き再び逃げ出す。
「このまままっすぐ走ってください!助けが来てます。」
「あっ、バンちゃん!……ってあれ?貴方はどうするの?」
「気にしないで下さい。早く行け!」
彼女の背中を押し出し、走って行くのを確認したアルトは後ろへ視線を向けて、彼等と相対する。
「こんのガキが……」
「随分コケにしてくれたじゃねえか……泣いて許してくださいって言えばまだ楽に殺してやるよ。」
「……………」
護衛が助けに来てくれるほどの彼女と、ただの子爵家の使用人。どちらが生き残るのが大事かなんて分かりきっている。
そして、目が血走っている彼等に向かって言った。
「ネズミに噛まれる気分はどうですかね?子猫さん?」
「「………殺す。」」
向かってくる男達の攻撃を避けようとするが……その道を生業としている奴らに叶うはずもなく、目前に二つのナイフが迫ってきて……………避けられる訳もなく第三の介入によって吹っ飛ばされた。
「グギャアアア!!!!!!」
「なっ!?」
突然の介入により殺される事は無くなったが、吹っ飛ばされた方向が悪かった。坂道を転がり落ち、手や足を気にぶつけながら転がり落ちていく。そして身体がぶつかった衝撃により、そのまま意識が途切れてった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「…はァ、はぁ、はぁ、っ!?」
バンちゃんに向かって走り、合流しようとした時に大きな音が森に響きます。その大きな音につられて振り返ると、彼が……使用人さんが魔獣に吹き飛ばされていく。
「使用人さん!」
「姫様!」
助けに行こうとする私を騎士団長のダグラスが止めてきます。
「ダグラス!ダメ、離して!あの人を使用人さんを助けないと!」
「今から行っても間に合いませぬ!姫様も早く避難を!」
「離して!ダグラス!」
ダグラスに連れられるように森を抜け、私は森から脱出しました………1人の犠牲によって。
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「………………」
次に目を覚ましたのは、日が登り始めた頃だった。
身体を起こそうとするが痛みで動かない。彼女は助かったのだろうか?自分は誰に飛ばされたのだろうか?あいつらは何だったのだろうか?どこから来て、何が目的で女の子を攫ったのか?身体が動かせない間、いろいろな事を考えるが結局分からず、少しは痛みが弱くなった体を打ち、奇跡的に魔獣に会わず、自分の荷物が置いてある木の場所に辿り着いた。
「……仕事に行かないと……」
準備が終わったアルトは倒れそうになりながらも、使用人として、子爵家へ向かうのだった。
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